オリンピックへの道BACK NUMBER
羽生結弦、圧巻の帰還と柔和な笑顔。
「スケートしているのが楽しくて」
posted2018/02/16 17:30
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Naoya Sanuki/JMPA
リンクに還ってきた羽生結弦が見せたのは、圧倒的な存在感だった。
2月16日、江陵アイスアリーナ、フィギュアスケート男子ショートプログラム。羽生は最終グループ、全体の25番目に登場した。曲はショパンの『バラード第1番ト短調』。リンクの真ん中へと進むと、場内が大きな歓声に包まれた。
曲が流れる。閉じていた目を開くと、羽生はすでに曲の世界にいた。
冒頭は4回転サルコウ。6分間練習では成功しないこともあったが、本番で見事に成功させる。
その後に繰り広げられたのは、圧巻の演技だった。
着氷の瞬間、小さくガッツポーズ。
スピンを2つ挟んだあとのトリプルアクセルはきれいに着氷。4回転トウループ、3回転トウループのコンビネーションでは、3回転で両手を上げてやはりきれいに着氷すると、小さく両手でガッツポーズをした。
そのたびに起こる拍手と歓声は、ステップとスピンを経て、曲が止んだとき、ピークに達した。地響きのような歓声と拍手が湧き起こり、たくさんの人々が立ち上がった。
得点は111.68。うち技術点は63.18、演技構成点は48.50。他の競技者を引き離し、トップでフリーに向かうことになった。
観る者に一切の不安を覚えさせない高い完成度と、曲の世界に引き込む演技を成し遂げた羽生は、演技のあとにこう語った。
「特に不満な点もなく、自分自身、疑問に思うエレメンツもありませんでした」
当地に入ってからの練習では、好調を感じさせた。ジャンプをはじめ、身のこなしには切れがあり、スケーティングそのものも流れるかのようだった。
動作だけではない。羽生の表情には常に落ち着きがあり、楽しんでいるかのような柔らかな笑顔もしばしば見せた。