オリンピックへの道BACK NUMBER

羽生結弦、圧巻の帰還と柔和な笑顔。
「スケートしているのが楽しくて」 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

PROFILE

photograph byNaoya Sanuki/JMPA

posted2018/02/16 17:30

羽生結弦、圧巻の帰還と柔和な笑顔。「スケートしているのが楽しくて」<Number Web> photograph by Naoya Sanuki/JMPA

リンクに舞い、ジャンプを成功させ、ファンが歓声を挙げる。羽生結弦という才能が戻ってきたのだ。

「今日を大事にしようと思っています」

 昨年のNHK杯での負傷後の長いブランクなど、みじんも感じさせなかった。演技だけを見れば、ブランクがあったとは到底思えない出来だった。

 ただよくよく考えれば、怪我をして長期間氷上での練習ができなかったにもかかわらず、ここまでのパフォーマンスを発揮できるのは、尋常なことではない。

 そんな羽生の試合後の取材の中で、印象に残った言葉があった。何度か明日のフリーについて問われた羽生は、そのたびにこう言った。

「特に特別なことはありません。今日を大事にしようと思っています。しっかりご飯を食べて、しっかり眠って、回復を図ることが大事です」

 明日のフリーにすぐ切り替えるよりも、食事、睡眠、その他一切をおろそかにしない。

 それは先をいたずらに見るよりも、今やること、やるべきことを全力で行なうという姿勢であり、きっと怪我してからの期間、かわることがなかっただろう。

「応援していただけていることを……」

 それは時間を無駄にすることなく復帰を志して取り組んできたということでもある。

 氷上から離れていた期間、懸命に勉強もしたという。

「大学の勉強の中で、論文へのアクセス方法も学んでいます。筋肉・解剖的な論文、トレーニングに関する論文などを読み、勉強しました」

 それもまた、有限の時間を最大限にいかす試みであり、今日の演技につながっている。

 印象的な言葉はまだある。

「幸いにも、3カ月間滑ることができなくて、滑ることが楽しかったですし、応援していただけていることを如実に感じられました」

 それが演技の支えになったと語る。率直な思いを表したのだろうが、怪我をして滑ることができずにいた期間を、「幸いにも」と表現したのである。

 そこには羽生の精神力の一端がうかがえた。

【次ページ】 一緒にスケートできるのが楽しくて。

BACK 1 2 3 NEXT
羽生結弦
ハビエル・フェルナンデス
宇野昌磨
平昌五輪
オリンピック・パラリンピック

フィギュアスケートの前後の記事

ページトップ