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バドミントン世界トップクラスの山口茜。
東京五輪で「強くなるため」の信念。
posted2017/11/16 11:00
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph by
Yoshikazu Shiraki
着実な成長曲線を描く20歳。
強くなりたいという純粋な想いが、
彼女を更なる高みへと突き動かしている。
Number933号(2017年8月9日発売)の特集を全文掲載します!
2016年8月のリオデジャネイロ五輪、バドミントン女子シングルス準々決勝。五輪初出場の山口茜は、当時世界ランキング6位の奥原希望との日本人対決に1-2で敗れた。しかし、過去の国際大会では勝利どころか、1ゲームも取れなかった相手に第1ゲームは21-11と圧倒した。
「最初からスピードをあげて全力で勝負しようと思ってゲームに入りました。それはできたと思います」
次々と鋭いショットが決まった。しかし、第2ゲーム以降は要所で強烈なショットを打つ奥原に少しずつリズムを奪われた。さらに繰り返される長いラリー中にシャトルをネットにかけるなど、徐々にミスが目立ち始める。第3ゲームも奥原のペースで進み10-21と完敗するが、最後まで強気に打つ姿勢は貫いた。
「試合を通して自分らしく戦えたし、力を出し切った。自分の中ではやりきった気持ちが大きかったです」
喜怒哀楽を見せない山口がこらえられなかった涙。
それでも試合後は悔し涙をこらえきれなかった。普段から厳しい状況におかれても何食わぬ顔で試合を進め、喜怒哀楽もあまり表に出すタイプではない。そんな彼女が五輪という大舞台で見せた“感情”。その姿に少し驚きを感じながらも、一方で、この敗戦を糧に、その後どんな変化を見せてくれるのか期待せずにはいられなかった。
「まさか自分でも泣くとは思っていなかったんですよ。でも、『たくさんの応援が日本からも来ていますね』と言われて、あらためて、自分は多くの方々に応援されていたんだ、メダルを期待されていたんだなと思ったら、負けたことに対して、力不足だったなとか期待に応えられなかったなという気持ちがこみあげてきて。そうした思いが涙や、『次につながる試合になったし、この経験を絶対に次に生かして強くなりたい』という言葉につながったんだと思います」
ベスト8止まりだったが持てるものすべてを発揮することはできた。しかし世界のトップに立つためには改善の余地がまだまだあることも痛感した。