ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
アメリカを驚かせた井上尚弥の力。
世界ランカーが逃げることしか……。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2017/09/11 11:30
「強い相手と戦いたい」と願う井上尚弥は、戦意をなくした相手に明らかに失望していた。誰ならば彼の飢えを満たすことができるのだろうか。
「相手に勝つ気がないと、試合自体が枯れちゃう」
日本でもお馴染みの元軽量級最強、ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)が3月にまさかの敗戦を喫したシーサケット・ソールンビサイ(タイ)とのリターンマッチに挑む一戦をメインに据えたイベントで、“モンスター”井上の試合はセミファイナルに組み込まれた。
井上が挑戦者に迎えたニエベスは17勝9KO1敗2分の戦績で、KO負けが一度もないというのが売り。しかし試合は初回からワンサイドの様相を呈した。
井上が2回に左ボディブローと右ストレートでニエベスにダメージを与えてからは「井上がいつ倒すのか」というテーマに焦点は絞られた。ニエベスが必死に逃げ回ったためやや長引いたものの、井上が5回にダウンを奪い、6回を終わったところでニエベス陣営が棄権を申し出て、試合は決まった。
豪快KOで“衝撃アメリカ・デビュー”といきたかった井上にとっては大満足という結果ではなかった。5、6回はファイトしないニエベスにあからさまな苛立ちを見せた。
「試合は相手があってのこと。今日みたいな一方的な、相手の選手に勝つ気がないような試合だと試合自体が枯れちゃうので。白熱した試合がしたいです」
ニエベスを擁護すれば、勝つ気はあったのだが、井上との力量差があまりにあって、何もできなかったのだ。途中から逃げ回ったのは、生存本能というものではないだろうか。
挑戦者と実力差がありすぎて、ピンと来なかった?
試合後、前出のネルソン氏は「アマ、プロを通じてKO負けが一度もない相手をKOして、井上は実力を証明した。彼のパワー、戦術は、ここ(アメリカ)で明らかに求められているものだ」と最大級の賛辞を口にした。他に話を聞けた米メディアの反応も「欠点がない」など、すべて好意的なものだった。
ただし本音を言えば、アメリカやメキシコの記者はピンとはこなかったと思う。それは挑戦者と実力差があったことが理由だ。あれだけ差の開いた試合になると「強いとは思うんですけど、まだよくわからないなあ……」というあたりが正直なところではないだろうか。