猛牛のささやきBACK NUMBER
オリ1年目・山本由伸の成長速度。
「久々にあんなピッチャー見た」
posted2017/08/23 11:20
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Kyodo News
「もうそろそろ秘密兵器になりますよ」
8月上旬、オリックスの二軍監督である田口壮はそう言ってほくそ笑んだ。
その言葉から10日後の8月20日、19歳になったばかりの秘密兵器・山本由伸は一軍に昇格し、プロ初登板初先発のマウンドに上がった。
千葉ロッテを相手に、150キロ台のストレートや、スライダー、ツーシームなどの変化球を駆使し、5回を田村龍弘の本塁打による1失点に抑えた。
山場は2-1と1点リードで迎えた5回表。1アウト満塁の場面で、代打の井口資仁を打席に迎えた。19歳と42歳、年の差23歳の対決。
「ずっとテレビで見てきた憧れの人なので、『おーっ』という感じはあったけど、しっかり楽しもうと思いました」
カウント3-1という押し出しのピンチになっても、山本は、捕手の若月健矢のサインに首を振り、136キロのスライダーで空振りを奪った。
「スゲーなと思った」と若月は振り返る。
フルカウントからもスライダーを投じてサードゴロ併殺に打ち取り、この回を0点に抑え、勝ち投手の権利をつかんでマウンドを下りた。
39年ぶりの記録については、まるで他人事。
「3-1とか3-0というカウントも、特に苦手ではないので、そんなに嫌ではなかったです」と言ってのける。
しかし6回に岸田護が同点本塁打を浴び、球団の高卒新人としては39年ぶりとなる“初登板初勝利”は消えた。
「あ、そうだったんですか。惜しかったっすね」
試合後、山本はまるで他人事のように微笑んだ。
勝ち星はつかなかったが、力のあるストレートと多彩な変化球、そしてマウンド度胸を存分に見せつけたプロ初登板だった。