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元キマグレン、2戦2敗のボクサー人生。
クレイ勇輝「あんな瞬間、人生で……」
posted2017/08/07 08:00
text by
宮田文久Fumihisa Miyata
photograph by
Ichisei Hiramatsu
「後楽園のリングに2回も上がることができて、僕は本当に幸せでした。
ただ一方で、試合前にジムの会長から『リング上では何が起こるか分からない』といわれて、ハッとすることもあった。あれだけ練習でも減量でも自分を追い込んで、ヘッドギアもつけず生身で殴り合う世界です。
だから僕は、みんなもプロボクサーになってみませんか、とは、とてもじゃないけど気軽にはいえません。ただ、本当に魅せられたし、素敵な世界だった、とはいえるんです」
戦いを終え、まだ腫れも収まりきらない顔に爽やかな笑みを浮かべながら、どこまでも実直に、ボクシングを愛した日々を語る人物がそこにいた。かつてキマグレンのボーカルを務めたアーティストであり、経営者としても活躍している男、クレイ勇輝。
この7月11日、後楽園ホールで行われた58kg契約4回戦に登場。6日後にプロボクサーのライセンスが失効する“定年”である37歳の誕生日を控え、“ラストチャンス”としてのリングだった。
「僕は、ボクシングに選ばれなかった人なんです」
2011年にボクシングを始め、2013年5月にプロテストに合格。同年11月には初めての後楽園リングでデビュー戦を飾るも、1R1分17秒のKO負けを喫した。だからこの夏のリングは、ラストチャンスでありながら、己へのリベンジマッチでもあった――。結果は4ラウンドをフルで戦えたものの、0-3の判定負け。
すべてを終えたクレイは、心の底から満足を覚えている表情で、しかしながら厳しいプロの世界を体験した者にしか語れないであろう、自分への冷静な分析を口にした。
「僕はボクシングが好きでも、ボクシングは僕を選ばなかったんですよね。僕は、ボクシングに選ばれなかった人なんです」