スポーツ百珍BACK NUMBER
神の足・鈴木尚広が語る盗塁と一芸。
「意外と打ってるんですよ(笑)」
posted2017/02/27 08:00
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph by
Hirofumi Kamaya
プロ野球ファンならここ数年見慣れた光景だった。
史上最高の盗塁成功率となる.829をマークし、昨季限りでスパイクを脱いだ。
現役生活20年間で培った走塁の極意、
それと同時にレギュラーへの葛藤はあったのか。
代走のスペシャリストとして名を馳せたランナーに訊いた。
――現役引退後初めてのキャンプのない生活ですが、心境は違いますか?
「現役生活20年間染みついてきたので、どんな気持ちかなと思ってたんですが、意外と何も思わなかったというか。自分にとっても新しい人生のスタートを切ったので、しっかりと区別できているとは思います。ただキャンプ情報は気になりますけどね(笑)。特に自分のいた巨人は気になります」
――巨人を外から見ている中で、期待している選手は?
「ニューヒーローが出てくるのは、ファンの皆さんも待ち望んでいると思うので……若手で言うと重信(慎之介)ですね。彼は野球に対しても考え方がしっかりしているので、必ずいい方向にいくと思います。僕の後に続け、というわけではないですけど頑張ってほしいし、足という魅力をもっともっと出してほしい。昨年はルーキーイヤーだったので手探りな部分もあっただろうけど、経験を重ねていけば非常に面白い選手になっていくんじゃないかと感じています」
――走力という部分は、鈴木さんがプロ生活で磨き続けた武器でした。特に代名詞と言える盗塁で、何か秘訣はあったのですか?
「実は盗塁する際、“相手のクセ”というのはあまりあてにしなかったです。もちろん投手の人間的なしぐさや特徴は観察しますけど、クセが分かりづらい人の方が圧倒的に多い。事前に自分で徹底的に調べ上げておきつつ、初球からでもスタートを切れる環境・感性を自分で整えておくことが大事なんですよ。
経験というのは、プロ生活を送ることで年々増してきます。感性にプラスして考えることが整理されて、状況を読む、周りを見渡すという余裕が持てる、自然と走りやすくなる。若手の頃は“走らなきゃいけない”、“アピールしなきゃいけない”という心理になって、考えすぎることで思い切りよくスタートできないことがありました。そういう考えなくていい要素を1つずつ剥がしていく、シンプルにして取り組んでいるうちに、結果がついてきましたね」