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アキレス腱断裂、戦力外通告の悲劇。
元ロッテ大松尚逸が選んだ「浪人」。
posted2016/12/06 11:00
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph by
NIKKAN SPORTS
「ふっ」
右足から何かが解放された妙な感覚だった。
次の瞬間、足の自由が利かなくなり、184cm、93kgの大きな体は崩れ落ちるように転倒した。2016年5月29日の荘銀日新スタジアム、イースタンリーグ公式戦。大松尚逸の2016年シーズンは、12年間のプロ野球生活で初めて一軍のバッターボックスに立つことなく、シーズン半ばで終わった。
「右足アキレス腱断裂」
手術は怪我をした翌日に行われた。今年で34歳、迷っている暇などなかった。入院は術後1週間の予定だったが、病院のベッドでただ寝ているだけの生活が耐えられなくなり、医師と相談、術後4日で早々に退院した。
「退院後は車いす生活が2カ月。それから装具に替えて、今度は松葉杖をつきながらさらに2カ月くらいかかりました。その間にアキレス腱の角度を元の位置に戻していくリハビリをしていくんですけど、これが本当に大変で、このときアキレス腱は切れた部分を重ねてくっつけている状態なので以前の長さよりは短くなっているんですよ。でもくっつけた場所は元のようには伸びないので、それ以外の箇所を徐々に伸ばしていくリハビリで、今まで使ってこなかった腱を伸ばしながら、角度をつけていかなきゃいけないので本当にきつかったし、しんどかったです」
「当時は絶対に元通りになるのは無理だなって思った」
足首の腱を伸ばす度に、涙と脂汗が滲んできた。
「もう、元には戻らないんじゃないか」
今にも千切れそうな気持ちを必死に繋ぎ止めながら、苦しいリハビリにも耐えた。
「最初は良くなるイメージなんて全く湧かなかったですよ。今は劇的といったらあれですけど、その当時のことを考えたら信じられないくらい回復しましたし、人間の体って本当に凄いなって、他人事みたいに思いますけど、当時は絶対に元通りになるのは無理だなって思っていました。何をするにしても痛むし、足首の角度は全然戻らないし、それでも時間だけが過ぎていく、そんな毎日でしたから……」