プロレス写真記者の眼BACK NUMBER
噛みつき魔。鉄人。黒い魔神。鉄の爪。
伝説のプロレス記者・門馬忠雄の告白。
posted2016/11/06 08:00
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
――原子爆弾の脅威、惨状を伝える写真を前にした瞬間、あのお喋りの“噛みつき魔”フレッド・ブラッシーが、固まったまま身動きしなかった――
'68年春の日本プロレス「第10回ワールド・リーグ戦」に参加した面々と一緒に、広島平和記念公園原爆資料館を見物したときの印象的なシーンを門馬忠雄さんは最新刊『外国人レスラー最強列伝』(文春新書)のプロローグの中で記している。
ブラッシーは力道山時代、その残忍な噛みつきで、テレビを見ていた人たちの「ショック死事件」を巻き起こした張本人である。
G・馬場、A・猪木と共に生きた伝説の記者・門馬忠雄。
私は幼い頃テレビで、ロサンゼルスで行われた力道山とブラッシーの試合を見た記憶が残っている。
噛みつきを繰り返すブラッシー。目に松ヤニが入って視界を失った力道山は空手チョップを打てずにレフェリーに試合を止められてしまう。
断片的だが、子供ながらに、悔しさを覚えた。
門馬さんは力道山が亡くなった翌年、東京オリンピックが行われた1964年からプロレスを担当するようになった。力道山とはボクシングの取材でしか話をしていないという。だから、門馬さんは、
――ジャイアント馬場、アントニオ猪木と同世代で、彼らとの同行取材によって鍛えられた、格闘技専門の記者である。――
この書は『新日本プロレス12人の怪人』『全日本プロレス超人伝説』に続くシリーズの3作目だ。前の2つで触れなかったレスラーたちから「嗜好品」と同じ感覚で13人をピックアップしたのだという。
そういうわけでハルク・ホーガンとリック・フレアーは除外された。
ハリー・レイスは好きだったが、ページに限りがあった。