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ロナウドとポルトガル、永遠の日。
勝利に愛された泣き虫のエース。

posted2016/07/12 11:30

 
ロナウドとポルトガル、永遠の日。勝利に愛された泣き虫のエース。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

優勝セレモニーの間も、ロナウドの目はずっと潤んでいた。この泣き虫のエースに優勝を、とチーム全員が願っていたのだ。

text by

井川洋一

井川洋一Yoichi Igawa

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photograph by

Takuya Sugiyama

 涙に濡れるスーパースターを一羽の蝶が慰める。

 12年前の母国開催での決勝に敗れて悔し泣きしたクリスティアーノ・ロナウドは、EURO2016のファイナルの前に「(今回は優勝して)嬉し泣きしたい」と語っていたが、前半にディミトリ・パイエの激しいチャージを受けて負傷してしまう。

 続行が不可能と悟ったポルトガルの背番号7の頬には、種類こそ違えど、またしても無念に起因する涙が流れ、ピッチに舞い込んだ小さな蝶は不運な英雄の心中を察するように、その甘い目許に寄り添った。そして、汗まみれの顔でさえ何かを惹きつける男には、勝利の女神もそっぽを向くことはできなかった。

 7月10日のサンドニの夜、ロナウドは喜怒哀楽のすべてを味わったことだろう。EURO2004の雪辱を果たす機会が訪れたことに喜びを感じ、敵の厳しい接触に怒りを覚え、至高の舞台から退かねばならない事実に哀しみ、最後は仲間とともに夢の成就を心から喜んだ。

 個人とクラブレベルのメジャータイトルはほぼすべて手にしてきた現在のフットボール界を代表する男が、ついに代表の主要トロフィーを獲得した。2週間前に代表のメジャー大会で3連続となる準優勝に終わったリオネル・メッシとは対照的だ(2007年のコパ・アメリカを含めると4度目)。このスポーツの暦において、2016年夏は、2大スターの明暗が分かれた時として記憶されることになる。

フランスが優勝しても美しい物語ではあったが……。

 物語のエンディングとしては EURO1984、1998年ワールドカップに続いて、フランスが開催国としての強さを三たび証明して戴冠するのが、理想だったかもしれない。ミシェル・プラティニとジネディーヌ・ジダンのように、アントワーヌ・グリエスマンが決勝でも得点してチームを頂点に導けば、その偉大な先達たちのように絶対的な存在になりえたし、ディディエ・デシャンは選手と監督の双方で欧州選手権を制した2人目の偉人として名を残すはずだった。

 そうなれば、昨年11月に起こったパリ同時多発テロの傷に今も苦しむフランス国民は、立ち直るための力を少しでも得られただろう。そして、決勝の18分にロナウドがひざを抱えてうずくまった時、ホスト国は16年ぶりの欧州制覇に近づいたように見えた。

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