フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
羽生結弦にとっては悔しい銀メダル。
フェルナンデス連覇とボーヤンの躍進。
posted2016/04/04 17:00
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph by
Asami Enomoto
やはり世界選手権は、他の試合とはまったく違う――。
そう実感させてくれる、緊迫感あふれる大会となった。ボストン世界選手権の男子フリーは、予想外の展開が待っていた。
羽生結弦は、落ち着いた表情でリンクの中央に出てくると、今やすっかり馴染深くなった、『Seimei』の最初のポーズに入った。メロディがはじまり、冒頭の4サルコウへの助走に入る。「降りた!」と思った瞬間、手をついた。
スピードを落とすことなく演技を続けたが、羽生の中で不安な気持ちが高まったのに違いない。後半の2度目の4サルコウで転倒し、2度目の3アクセルでステップアウト。普段の羽生には考えられないミスが続いた。
それでもフリー184.61、総合295.17 と優勝してもおかしくないスコアが出た。だが歴代最高スコア330.43を持つ彼にとって、到底納得できる内容と結果ではなかったろう。
「体と精神のバランスがとりきれなかった」と羽生。
「(滑る前に)落ち着いていたとは思います。ただ落ち着きというものが、プログラムに全て影響するわけではないと思っているし、体や精神のバランスが大事。それがうまくとりきれなかったというのが反省点です」
会見場で、悔しさを抑えるように静かな表情で語った羽生。世界選手権2位は普通の選手にとっては祝うべき結果だが、普段できることができなかったという悔しさが先にたつのに違いない。
「もう一度滑りたいです」と、会見の冒頭では、英語でそうコメントした。
来季、これをどう糧にしてくるのか?
このスポーツで偉業を成し遂げたとはいえ、冷静に考えれば彼はまだ一般人が大学卒業する年齢にも達していない。今回は公には話題にしていないが、足首の負傷も抱えていたコンディションで、ストレスもプレッシャーも普段以上にあっただろう。「羽生結弦」だって生身の人間。毎回パーフェクトな演技を期待するのは無茶な話である。
だがこれまでも、転んでもただでは起きたことのないのが羽生結弦だ。
障害があればあるほど燃え上がり、それを乗り越えるために一回り大きく成長していく選手である。
ここでの悔しさを糧として、来シーズンまたスケーターとしても人間としても一回りも二回りも成長して戻ってくるだろう。