フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
羽生結弦が見せた桁違いの強さ――。
世界選手権SPで見せた驚異のメンタル。
posted2016/03/31 17:00
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph by
ISU/ISU via Getty Images
日本時間の3月31日、マサチューセッツ州ボストンで開催された世界選手権の男子SPでは、ソチ五輪王者、羽生結弦がその強さを改めて世界に見せつけることになった。
ショパンのメロディにのって冒頭の4サルコウ、4トウループ+3トウループのコンビネーション、そして得意の3アクセルをきれいに降りて、力のこもった完ぺきな演技だった。110.56という点が出ると、会場は割れるような歓声につつまれた。
公式練習で大声をあげた羽生結弦。
演技直後にミックスゾーンの記者たちの前に現れた羽生は、屈託のない笑顔を見せてこう言った。
「もう気持ちよく滑りました。精神状態は皆さん見てわかったように、ちょっとぐちゃぐちゃでしたけど……」
羽生の言う「ぐちゃぐちゃ」の理由は、もちろんその日の昼間の公式練習での出来事を指しているのに違いなかった。
サブリンクで行われていた練習中、音楽に合わせてランスルーをしていた羽生のステップの筋道の中央でスピンをしていたデニス・テンに、大声で「それはねえだろう! お前!」と日本語で叫ぶという、異例の出来事があったのだ。羽生はその後、得意のアクセルで転倒。悔しそうに壁を手で叩いた。
テンによって繰り返し中断された演技。
練習中に、選手たちが接触しそうになったり、実際にぶつかってしまったりということはたまに起きることだ。だが通常の場合は、双方に非がある、お互い様ということで穏やかに収まってきた。
だが、羽生が感情的になったのには理由があった。
その前日も羽生の音楽がかかっている最中に、2度ほどテンの不注意によって練習を中断され、終わってから注意を促す言葉を交わしたのだという。
公式練習では音楽のかかっている選手が優先とされているが、かといって他の選手は止まって見ている訳ではない。音楽に合わせて滑っていたスケーターが、ほかの選手に道筋に入ってこられてジャンプを途中で諦める、という程度のことは珍しいことではない。だが何度も繰り返されたテンの無神経さに、羽生はブチ切れてしまったのだ。