野球善哉BACK NUMBER
「10勝なんて絶対無理だと思ってた」
開幕抜擢の菊池雄星、やっとの自覚。
posted2016/03/24 10:40
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
NIKKAN SPORTS
本人の言葉を借りれば“スモールステップ”での抜擢といえる。
入団以前から世間を騒がせてきた7年目の菊池雄星が、ついに開幕投手を務める。これまで二ケタ勝利を挙げたことがない中での抜擢には様々な狙いが垣間見えるが、ようやく菊池に大役が回ってきた。
「特に開幕投手を務めることの実感はないんですけど、楽しみにしています。昨年のオフから取り組んできたことが、今シーズンの結果につながるのか。勝負の年になると思っています」
開幕に向けて、菊池はそう意気込みを話している。
そして今回の抜擢には、「開幕投手」というだけに留まらない重大な意味があることを忘れてはいけない。
入団4年目の2013年、菊池は前半だけで9勝を挙げる活躍を見せた。2014年は、成績は悪いながらもほぼ1年間ローテーションを守った。昨シーズンは開幕こそ出遅れたが、23試合に登板、9勝10敗の成績でシーズンを終えた。
菊池の登板試合は、“カード頭”ではなかった。
左腕エースとして期待を受けてきた一方で、彼の登板を振り返ってみると、実はそれほどチームの中でのプライオリティが高くなかったという事実がわかる。菊池が先発するのは、ほとんどがエースの岸が投げた後の2戦目か3戦目。各球団のエース級が登板する“カード頭”は任されていないのだ。
菊池が6球団競合の末にプロ入りを果たした選手だということに鑑みれば、物足りない立ち位置といえるだろう。「カード頭を任せてもらえないだけじゃなくて、たとえば、順番の巡りで相手のエースが投げてくる日は、登板が飛ばされるようなピッチャー」と昨シーズン中、菊池自身が語っていたことがあったが、それを否定することは難しい。
「僕は注目される試合が好きだし、お客さんがいっぱい入っている試合は燃えるタイプ。だから、CSや絶対に負けられない試合で投げたいんですけど、これまでCSでは常に中継ぎ待機でした。つまりそれは5、6番目の先発投手でしかないということ。そこは自分が変えていかないといけない」
その投手が、今季大役を務めるわけである。