ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
「スイングのことだけ考えてないか?」
バッバが石川遼と2人だけで話した内容。
posted2015/11/18 10:50
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
AFLO
自分とは正反対の存在と思っている人からの助言が、道を開かせることがある。
石川遼がそんな体験をしたのは、昨年からこの秋にかけてのことだった。
ちょうど1年前の日本ツアー・三井住友VISA太平洋マスターズ。過去2勝を収めてきた富士山麓の太平洋クラブ御殿場コースで、石川は思いもよらぬ時間を過ごした。
予選ラウンドのプレーを終え、クラブハウスに引き上げた頃。当時エースキャディを務めていたサイモン・クラークが急ぎ足で近づいてきた。
「バッバが、呼んでる」
2日間、同じ組でプレーしたばかりのバッバ・ワトソンである。マスターズを2012年、2014年と2度制した稀代のロングヒッター。招待選手として9年ぶりの来日を果たしたレフティから“呼び出し”を受けたのだった。
ワトソンは、通訳を買って出ようとしたクラークを「いいや、彼は英語も分かるから大丈夫。おれはリョウと直接話したい」と制し、石川とのマンツーマン・トークを望んだ。
多くの日本人選手や関係者が行き交うロッカールームの一角。その隅で、ワトソンのデンマーク人マネージャーらが人垣になり、ふたりの空間を作ったという。
叱られると思ったら、ワトソンが口にしたのは……。
「俺は超緊張しちゃって……『ヤバい、何を言われるんだろう。ラウンドの時に、マナーのことなんかで、なにか悪いことしたのかな』と思って。『あれは良くないぞ』と怒られるのかと思った」と石川。
「でも、そんなのとはまったく違う話だったんだ」
190cmのワトソンは巨体を少しかがめ、大きな目を見開いて言った。「キミはラウンド中、何を考えてプレーをしているんだ? いつもスイングのことばかりじゃないか?」
ふたりが一緒にプレーしたのは、この前年大会が初めてではない。2011年の対抗戦プレジデンツカップでは、それぞれ世界選抜、米国選抜の一員としてシングルマッチでぶつかっている。