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クリストファー・マクドゥーガル
『BORN TO RUN』の先に見える世界。

posted2015/09/30 10:00

 
クリストファー・マクドゥーガル 『BORN TO RUN』の先に見える世界。<Number Web> photograph by Mami Yamada

text by

飯塚真紀子

飯塚真紀子Makiko Iizuka

PROFILE

photograph by

Mami Yamada

300万部を売り上げた著書『BORN TO RUN』で世界のランナーを変えた男がランのこれからを語る。キーワードは、走るのを楽しむ、体の声に耳を傾ける、アスレティシズム、そしてアートとしてのランニング。本日発売のNumber Do「ランの未来学。」より、インタビューの一部を公開します。

 世界的ベストセラーとなった著書『BORN TO RUN』で、ランニングシューズで走るという“常識”を根底から覆し、野生への回帰を訴えた作家クリストファー・マクドゥーガル。彼はどう走り、これからどう走っていこうとしているのか。ペンシルバニア州のランカスター郊外にあるログハウスで暮らすマクドゥーガルが“ランの未来”を語った。

 2011年8月21日。午前2時。クリストファー・マクドゥーガルはコロラド州レッドヴィルで開催されているウルトラマラソンレースのまっただ中にいた。標高3000mを超える、難関と言われているレースの一つだ。彼はフィニッシュ・ラインまであと15マイルの地点に到達していた。テントには疲れ切ったランナーたちが倒れるように駆けこんでくる。ここまでだ。これ以上走れない。ランナーの中からは呻くような声も漏れた。

 しかし、そんな重苦しい空気が流れるテントが次の瞬間生き返った。裸足のランナーが満面に笑みを湛えながら、飛び込んで来たのだ。『BORN TO RUN』で、メキシコの山中をマクドゥーガルらと走った、“裸足ラン”で知られる“ベアフット・テッド”である。

 マクドゥーガルの瞼には、今も、この時のテッドの姿が鮮やかに蘇る。

「僕は身体が痛くなるようなことはしないんだ」

「ランナーたちは22時間も走り続けていました。テッドはそんなことをものともせず、笑い、みんなとおしゃべりをして、ハッピーそのものだった」

 ベアフット・テッドの生き生きした姿に圧倒されたマクドゥーガルはきいた。

「このレースのために、一生懸命、練習したのかい?」

 すると、テッドは答えた。

「いや、練習は少ししかしなかったよ」

 信じられない答えに、続けてきいた。

「それなのに、なぜ、君はそんなに強いんだ?」

 テッドが秘密を明かした。

「みんな、少しでも速く走ろうとしたり、レースで勝とうとしたりして、脚を痛めるよね。僕は身体が痛くなるようなことはしないんだ。楽しいことをするんだ」

 マクドゥーガルの中で、何かが突き抜けた。魚は泳ぐのを楽しんでいるし、鳥は飛ぶのを楽しんでいる。人は、そう、走るのを楽しめるはずだ! それなのに、人は、自分は、走るのを楽しんでいるのか?

【次ページ】 痛みに苦しみ、走ることをやめた20代。

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ベアフット・テッド

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