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出場試合ゼロの津商“レギュラー”。
甲子園で勝つための仕事は無限に。 

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中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byKyodo News

posted2015/08/12 09:00

出場試合ゼロの津商“レギュラー”。甲子園で勝つための仕事は無限に。<Number Web> photograph by Kyodo News

甲子園の初戦を勝って、試合終了後に校歌斉唱する津商の全選手。部員ひとりが欠けても勝てない厳しい戦いは続く……。

 企業の人事担当者からすれば、喉から手が出るほど欲しい人材ではないか。

 津商(三重)には、地方大会から通じて出場試合ゼロの「レギュラー」が2人いる。背番号13の一塁コーチャー・東将司と、背番号16の三塁コーチャー・上嶋悠斗だ。

 彼ら2人の動きを目で追っていると、飽きることがない。攻撃イニングが始まると、まるでゲートアウトした競走馬のように、勢いよくベンチを飛び出す。

 コーチャーズボックスに辿り着くと、まずは土を足で丁寧にならし、スパイクで3本のラインを引く。その姿は、まるで神聖な儀式のようにさえ映る。

 3本のラインは、もともとは三塁コーチャーである上嶋のアイディアだった。1本目は三塁ベースと垂直に引く。そのラインと平行に足された2本のラインは、三塁走者が出た場合の第1リードと第2リードの位置を示している。そうして走者がどれだけリードしているかひと目で判断できるようにしているのだ。

 東もそれを真似し、3本のラインを目安に二塁走者のリードの距離を測るようになった。

「たとえば第1リードのラインに立って、後ろのフェンスのどこの(広告の)文字と(二塁)走者が重なったら、ここまで出てるんだというのがわかるよう事前に確認しておくんです。2人は部屋も一緒なので、そうやってどうすればチームに役立てるか、常に話し合ってるんです」

コーチャーズボックスの中を所狭しと動き回る!

 津商の部員数は91名。身長は上嶋が165センチ、東が166センチと2人とも小柄で、東いわく「2人とも野球はそんなにうまくない」。それでも何とかベンチ入りするために、上嶋は昨年秋から、東は今年の春から、自らの意志でコーチ専属となり、技術を磨いてきたのだ。上嶋が言う。

「人ができないところ、やらないところで、勝負をしようと思った。試合に出ていなくても、試合に入っていける感覚があって、だんだん楽しくなってきた」

 その上嶋は所狭しと、コーチャーズボックスの中を動き回る。

「いちばん後ろの方が外野の位置は確認しやすい。でも、前に出た方がピッチャーの視界に入るのでプレッシャーを与えられる。相手ベンチの動きも常に見てます。わからなくても、見られているだけで嫌だと思うので」

【次ページ】 冷静かつ俊敏に、高度な判断を下す能力も。

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