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父、辰吉丈一郎の愛と愛は溶けるのか。
~息子・寿以輝の連勝に何を思う~

posted2015/08/11 10:30

 
父、辰吉丈一郎の愛と愛は溶けるのか。~息子・寿以輝の連勝に何を思う~<Number Web> photograph by KYODO

プロ2戦目後、試合前に交通事故にあっていたことを明かした辰吉寿以輝。

text by

藤島大

藤島大Dai Fujishima

PROFILE

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KYODO

 せがれも王子だ。誰だって自分の息子はかわいい。だから思う。この父親はどうなってしまうのだろう。

 辰吉丈一郎。かつてプロボクシングの世界バンタム級チャンピオン。ストリートファイトの像もよぎる闘争心と、ストリートスマート(路地裏の級長)の思慮深さで難敵を仕留めた。

 その次男、寿以輝が7月20日、プロ2戦目となるバンタム級4回戦を2回KOで制した。対戦相手の岡村直樹は市役所勤務で、そこまで1勝3敗、「息子」の勝利に不思議はなかった。

 父、丈一郎はボクシングを愛している。そんなの当たり前ではないか、と表現の拙さを叱られそうだが、ラブの濃度と密度は「大好きです」の次元にない。それどころか「人生そのもの」の範疇にも収まらない。もはやタツヨシジョウイチロウという生命体と同化している。

 一例。怖いものなどなさそうな元王者は、解説や試合後のコメントで、絶対に後進ボクサーを批判しない。亀田興毅の真贋が物議をかもした当時もそうだった。

「頑張って世界を取ったやんか。それを大人が非難してどないすんの?」('06年、大阪日日新聞)

 主催テレビ局への配慮とは無縁、根源のボクシング愛がそうさせる。ボクサーとは勝敗のみで評価される。ほかは知らん。そんな感じ。

愛の洪水は優しきジョーの容量を超えはしないか?

 そこまで愛してやまぬボクシングを愛する息子が始めた。愛と愛は溶けるのか。はたまた、ぶつかるのか。あるいは、こんがらがるか。最後のところで父の魂はどちらに傾くのか。愛の洪水は優しきジョーの容量を超えはしないか。少し心配になるのだ。

 個人的に、この永遠のボクサーをこれからも忘れない。ふたつの言葉によって。

 1991年の某日、大阪帝拳ジム、石油ストーブの前で両膝を抱え、減量の汗をかきながら、21歳の辰吉丈一郎が、こちらを見上げて言った。

「記者さんも、わざわざ東京から大変ですね」

 瞬間、好きになった。ほどなく米国オハイオ生まれのグレグ・リチャードソンを破り、世界のタイトルをつかんだ。

【次ページ】 願わくば、偉大なる父とは異なるガードを……。

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