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武藤嘉紀の移籍金4億円から考える。
「売れる」ようになった日本、次は?

posted2015/06/10 11:00

 
武藤嘉紀の移籍金4億円から考える。「売れる」ようになった日本、次は?<Number Web> photograph by J.LEAGUE PHOTOS

今年の3月に慶應義塾大学を卒業したばかりの武藤嘉紀。卒業から4カ月でブンデスリーガへ移籍するというスピード出世は、長友佑都を彷彿とさせる。

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並木裕太

並木裕太Yuta Namiki

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4億円

(マインツが提示した武藤嘉紀選手の移籍金)

 5月30日、FC東京の武藤嘉紀選手がブンデスリーガのマインツへの移籍を決めたことが正式に発表されました。契約期間は4年、移籍金は約4億円(300万ユーロ)と報じられています。プレミアリーグの名門、チェルシーからも約7億円(400万ポンド)の移籍金で獲得オファーを受けていましたが、武藤選手が選んだのはドイツの中堅クラブでした。

 Jリーグ関係者に話を聞くと、武藤選手に提示された移籍金の額は好意的に受け止められています。近年、Jリーグから欧州のクラブに移籍する選手は数多く出てきていますが、その移籍金は必ずしも高いとは言えない状況が続いていたからです。たしかに、営業収入が約31億円(J1平均・2014年度)のJクラブにとって、それだけの値段で選手が売れる可能性が証明されたことは勇気づけられる話なのかもしれません。

 しかし、世界の移籍マーケットにおいては、日本の存在感はまだまだ極めて小さいと言わざるを得ません。クラブの年間収入が数百億円、1人の選手の移籍で時に100億円規模の金額が動く欧州主要国は別格として、FIFAランキングで日本(52位)と近い順位につけている国と比べても、その差は歴然としています。

 各国リーグの海外移籍による移籍金収入(過去5年間の平均・外国籍選手の海外移籍も含む)は、スウェーデン(39位)が約22億円、セルビア(45位)が約11億円、トルコ(57位)が約26億円でしたが、日本は約4億円にとどまっています(武藤選手は1人で年間の平均額を稼ぎだすことになります)。

香川真司は、何故4000万円で買われたのか。

 例示した3カ国について「自国籍選手の海外移籍金」に絞って調べてみると、過去5年の移籍金上位はおおむね4~7億円(300万~500万ユーロ)で、武藤選手の移籍はそれらのケースに肩を並べるものだということが分かります。こうした面からも、武藤選手が世界の移籍マーケットで受けた評価は妥当なものだと言うことができそうです。

 ここでまず考えたいのは、これまで日本人選手が海外挑戦を選んだ場合に、なぜ才能に見合った移籍金が発生しない状況が続いてきたのかという点です。例えば2010年にセレッソ大阪からドルトムントに移籍した香川真司選手の移籍金は、わずか約4000万円だったと言われています。そうした状況を生む大きな要因の一つとして挙げられるのが、Jクラブと選手との契約にまつわる“ある慣習”だといいます。

【次ページ】 日本的な契約が、欧州に足元を見られる。

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