野球善哉BACK NUMBER
菊池雄星、「常に力投」に潜む副作用。
そろそろ見たい、原石の“完成形”。
posted2015/04/30 12:20
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
NIKKAN SPORTS
その表情には、充実感と悔しさが入り混じっていた。
西武・菊池雄星が4月28日のロッテ戦に今季初先発。7回3分の1を6安打3失点12奪三振と、上々ともいえる復活登板を見せつけたが、チームを勝利に導くことができなかった。
「ストレートで多く空振りが取れましたし、内容に関しては最低限のことはできましたけど、こういう試合は何としても勝ちたかった。相手はエースですし、投手戦という状況の中で粘り切れなかったのは、自分の力不足だと思います」
囲み取材での菊池の言葉からは、手ごたえを感じつつも、ひとりのピッチャーとして投げ負けたことへの悔しさがにじみ出ていた。
天性の腕の振りは健在、ではなぜ負けたのか。
とはいえ12奪三振の数字が示しているように、彼本来の力は見せられたと思う。むしろ、彼がプロに入ってからの中ではベストに近いくらいの球質を見せていたのではないか。
鋭い腕の振りからの力強いストレートは常時140km後半を計測し、ストレートを意識させながらのスライダー、チェンジアップなどの変化球も冴えた。
ロッテの伊東勤監督は「(菊池の)強いボールにウチの打線が力負けしているような感じだった」と話していたし、菊池の視察に訪れていたMLBのある球団スカウトも「井口がインコースのスライダーを空振りしていた。井口がスライダーをあんな形で空振りするのは珍しいことだから、(菊池のボールは)相当に切れているんじゃないか」と絶賛するほどだった。
オフのトレーニングによる体重増加により、ストレートが力強くなってきている。もともと天性の腕の振りを持ち、リリースの瞬間に力を強く伝えることができる彼の持ち味が、体重増加でスケールアップしたということだろう。
しかしなぜ菊池は、それほどのピッチングをしながら負けてしまったのか。
打線が相手投手を打ち崩せなかったと片付けてしまえばそれまでだが、その足りない部分にこそ、ここ数年菊池がいまひとつ殻を破り切れない要素が隠されているような気がした。