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地方ボクサーの夢は、昔も今も「聖地」後楽園。
~“噛ませ犬”の立場を覆す覚悟~ 

text by

前田衷

前田衷Makoto Maeda

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photograph byBOXING BEAT

posted2014/11/09 10:30

地方ボクサーの夢は、昔も今も「聖地」後楽園。~“噛ませ犬”の立場を覆す覚悟~<Number Web> photograph by BOXING BEAT

坂本は実績十分の椎野を徹底的に研究。5回の猛攻も綿密な作戦が功を奏したものだった。

「聖地」後楽園ホールのファンは、時に手厳しく、時に暖かい。これは先日目にした光景―。

 前座の6回戦で元アマチュアのトップ選手が、プロデビュー戦を明らかなガス欠で落とした。この直後「もっと練習してから来い」と客席から叱声が飛んだ。次の試合では、地方ジム所属の選手がこれまたアマ出身の元王者と対戦。不利の予想を覆して逆転TKO勝ちを飾った。すると、日頃は辛らつなホールの観客がこの無名の勝者に対し惜しみない拍手を送ったのである。判官贔屓もあろうが、負けた選手の支持者でなければ、こうした番狂わせもボクシングの楽しみである。

 この日(10月13日)至福の時を過ごしたのは、福岡のフジタジム所属の坂本英生で、日本ランキングにも入っていない。相手の椎野大輝は東洋大学で村田諒太の同僚だった。元東洋太平洋バンタム級王者で、11勝10KOの強打が売り物。この夜も3回に坂本からダウンを奪うまでは、予想通りの展開だった。しかし坂本は倒されても少しもひるまず、長身から繰り出す伸びのいい右ストレートで応戦。これで5回にダウンを奪うと、一気の攻めでストップ勝ちしたのである。「負けて元々のつもりだったので信じられない」と本人も驚く逆転劇。「技術では負けるけど、力には自信があった」と、正統派のボクシングで勝利を呼び込んだ。

前日本新人王戦の経験がある坂本は委縮しなかった。

 昔も今も地方ジムの選手の夢は、「聖地」後楽園ホールで戦い、そして勝つことである。これが容易ではない。そもそもお呼びが掛かるのは、関東の主催ジムから勝てそうな相手と目星をつけられたからで、予想が不利なのも当然なのである。また「聖地」に対する思い入れも強く、それゆえに初めてホールで戦う選手は独特の雰囲気に飲まれ、思うように力を発揮できないことも珍しくない。

 連勝で勢いに乗る地方のホープが、自信満々で初舞台の後楽園ホールに登場したものの「リングサイドのテレビ放送席に座る有名な元チャンピオンの姿が目に入った途端アガってしまい、何も分からなくなって」KOの惨敗……。似たような体験をした選手も少なくないはずだ。今回の坂本の場合、5年前に全日本新人王戦で一度ホールに立っているから萎縮することはなかった。早めに“聖地体験”を済ませておくのが得策のようである。

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