「“元横浜ベイスターズの4番打者”がDynamite!!参戦」
そんな煽り文句が飛び交った昨年の大晦日。この一戦に注目した人も多かったのではないだろうか。
横浜ベイスターズ→オリックス・バファローズに所属した古木克明。その総合格闘技デビュー戦がいきなりのこの大舞台である。
思い起こせば'09年。オリックスを解雇された古木が、その年の12月8日に突如、新たに立ち上げられた格闘技団体SMASHへの所属、総合格闘家への転身が発表された際は、ある意味、真珠湾攻撃か、ジョン・レノンが暗殺されたぐらいのショックを受けたものである。
「自分には野球しかない。やれる自信もあるし、最後まで野球にこだわっていきます」
ひと月前に行われた合同トライアウトでは、そんなことを言っていたのに……いくら、どこからもオファーがないとはいえ、格闘家への転向って。
古木という野球選手に心底惚れ込んでいた。それだけに、その決断はどこか裏切られたような、寂しい思いがした。
'98年、横浜高校とベイスターズが優勝し神奈川イヤーと呼ばれたこの年、ベイスターズは松坂大輔のハズレ1位として高校通算52本塁打のスラッガー古木を指名。その年、球界を席巻した単打をつなげるマシンガン打線に唯一足りなかった和製大砲の誕生は、来るべき新しい横浜の象徴として大いに注目されることとなった。'02年9月のプロ初安打を皮切りに、約1カ月で打率3割2分、9本塁打と頭角を現すと、消化試合とはいえ4番にも据えられ、古木はスター街道を歩きはじめたかに思えた。
だが、翌年以降、古木の迷走と混乱がはじまる。
予想の斜め上を行く古木の行動に一部のファンは魅了された。
レギュラーとして開幕を迎えた'03年の成績。125試合出場で打率.208、22本塁打、37打点。131三振、20失策。結果的にこの年が古木の野球人生のキャリアハイであり、そのすべてだったと言ってもいい。
打率は稼げず、三振を量産。本塁打こそ出たもののそのほとんどがソロ。22本も打っていながら37打点の数字が物語るように、チャンスでの勝負弱さは群を抜いていた。さらに致命的だったのが守備のマズさである。お手玉、トンネル、転んで暴投、「古木あーっと」なんて言ってるうちに、サード失格の烙印を押され外野へコンバート。そこでもボールを見失うわ、落球するわ、ランナーサードのサヨナラの場面でファールフライをファインプレーでキャッチしてホームインを許してしまうわ。かつては好意的だったスタンドの声も、やがて厳しいものが目立つようになっていた。
だがその一方で、古木の奇想天外な守備や、5月4日に「こどもの日に打てて嬉しいです」とお立ち台で言ってしまう天然な性格、ベンチでタバコを吸っているシーンがYouTubeに流出してしまう運の悪さ、それでいて巨人・上原や広島・黒田など各球団のエース級から一発を放ってしまう魅力など、数字では絶対にあらわれないが、“何かを持っている”と思わずにはいられない独特の華ともいうべき存在感に、一部のファンはチームの隔てなく古木を異常なまでに愛した。
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