プロ野球亭日乗BACK NUMBER
野球に「誤審」は決して存在しない!
ビデオ判定に思う、審判の権威とは。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNewscom/AFLO
posted2014/01/23 16:30
日本で一躍「有名」になったデービッドソン主審と、抗議する王貞治監督。
今年のメジャーリーグは、野球文化という観点から、大きな転換点の年になるかもしれない。
先頃行なわれたMLBのオーナー会議で、ビデオ判定の適用範囲が大幅に拡大されることが決まった。
これまでのビデオ判定は本塁打の判定のみを対象に、適用するかどうかも審判員に委ねられていた。もし、審判員が「必要あり」と認めた場合に初めて、ネット裏のビデオ機器を使って確認して、最終的な判定を下していた。
これに対して今シーズンから導入される新ルールでは、ビデオ判定はストライク、ボールの判定以外のほぼ全プレーに適用されて、両軍監督が各1回のチャレンジ権を持って試合をスタート。権利を行使して判定が覆ったときにはチャレンジ権は消費されずに、次にまたチャレンジできるというシステムだ。ただし、1試合で最大2回までしか権利は使うことができない。
またこれまで審判の尊厳を傷つけ、混乱を招くという理由で球場スクリーンでの微妙な判定のビデオ再生は禁止されていた。これも今季からはすべてのプレーがオープンになって、スタンドからリプレイを観ることができるようになる。
ビデオ判定をするのは、NYで待機する審判員。
そしてこの改革の大きなポイントになるのは、ビデオ判定になったら当該の球場でジャッジをしている審判員ではなく、ニューヨークに設置されるリプレイ・コマンドセンターというところで判定が行なわれるということだ。そこでは4人の審判員が待機してリアルタイムでビデオを検証。球場の審判員はヘッドセットで連絡を取って判定を仰ぐ。そしてこのリプレイ・コマンドセンターのジャッジが、最終的なものとなる。
要は現場の審判の権威は、そこではすべて消失することになるのである。
これで判定は非常にシステム化され、おそらくジャッジの混乱も減少するのだろうが、その一方で野球の陰の主役と言われる審判員の尊厳と存在感が、大幅に削がれる危険性を孕むのではないかという危機感もある。
“ミスジャッジ”もまた野球の一つである――これは守旧派の野球ファンには根強い考えだ。言い方を変えれば、野球には原則的に“ミスジャッジ”は存在しないとも言える。
それぐらい審判の判定は絶対なのである。