ブックソムリエ ~新刊ワンショット時評~BACK NUMBER

全ての痛みに終わりはあるのか?
~長谷川晶一・著『夏を赦す』~ 

text by

幅允孝

幅允孝Yoshitaka Haba

PROFILE

photograph bySports Graphic Number

posted2013/11/27 06:00

全ての痛みに終わりはあるのか?~長谷川晶一・著『夏を赦す』~<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

『夏を赦す』長谷川晶一著 廣済堂出版 1600円+税

 元日本ハムファイターズの岩本勉投手は、どこかで後ろめたい気持ちを抱えながらマウンドに立っていた。陽気な笑顔と「まいどっ!」でお馴染みの威勢よい大声。燃え立つエネルギーを充満させ、マウンドで躍動した岩本は、記録よりも記憶に残る太陽のような投手だったはずだ。

高3夏の出来事を引きずってプロ生活を送った岩本勉。

 だが彼は高校最後の夏の出来事を引きずったままプロのマウンドに立ち続けていたという。本書は、そんな岩本勉と高校時代のチームメイト、そして家族やスカウトマンたちの証言によってあぶり出される喪失と蘇生の物語だ。

 平成元年の7月、岩本たち阪南大高校野球部は不祥事で甲子園への道を断たれた。後輩である2年生の野球部員が暴力事件を起こしたのだ。多くの部員は野球を奪われ、彼らは涸れるまで涙を流す。

当時の部員の証言、そして肉薄してゆく事件の核。

 そんな中、岩本だけは「男の根性とは辛抱や」という父の言葉を胸に、一人こっそりと練習を続けた。結果、同年のドラフト会議で、彼は日本ハムの単独2位指名を獲得。何かを背負いプロへ進む。

 皆が捨てざるを得なかった野球を、唯一続けることができた才能と幸運。だが、本書は岩本と仲間たちの美談では終わらない。当時の部員全員にインタビューを敢行しようとし、彼らが過ごしたそれぞれの25年を積み重ねてゆく。そして、肉薄してゆく事件の核……。全ての痛みに終わりがあるのか?と、この渾身のノンフィクションはあなたに語りかける。

関連コラム

ページトップ