ブックソムリエ ~必読!オールタイムベスト~BACK NUMBER
大作家の筆で味わう、
スポーツ・ライティング。
~井伏鱒二・著『川釣り』~
text by
馬立勝Masaru Madate
photograph bySports Graphic Number
posted2013/11/22 06:00
『川釣り』井伏鱒二著 岩波文庫 560円+税
教科書によく載っている「山椒魚」の作者。文豪には違いないが、それではちょっと物々しい気がする。簡潔で平明で、アユのはらわたの様なほろ苦いユーモアと余韻漂う文章の達人。井伏鱒二、号は尊魚堂主人、釣りの名手としても知られる大作家だ。
「おい井伏や、釣りは文学と同じだ」と釣りの師匠・佐藤垢石(こうせき)はいう。教わりたてはよく釣れるが、自分で工夫するうちに釣れなくなり、10年続ければまた釣れ始める。「先ず、山川草木にとけこまなくっちゃあいけねえ」と。垢石は随筆家で釣りの名人、諭すところは文章道と同じ修行の道だが、井伏先生はそんな厳しい教えは心の底にしまい込み、竿をかついで飄々といそしむ釣り行脚の記である。