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女子格闘技界を牽引した、
藤井惠らしい有終の美。
~負傷判定負けにも悔いはなし~ 

text by

布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

PROFILE

photograph bySusumu Nagao

posted2013/10/27 08:00

女子格闘技界を牽引した、藤井惠らしい有終の美。~負傷判定負けにも悔いはなし~<Number Web> photograph by Susumu Nagao

試合後ジェシカと笑顔で抱き合った藤井(右)は、今後も格闘技界に関わることを宣言した。

 彼女らしい幕引きといったら怒られるだろうか。『VTJ3rd』(10月5日・大田区総合体育館)で藤井惠は“宿敵”ジェシカ・アギラーとの引退試合に臨んだが、2ラウンド終了後に負傷判定負けを喫した。ジェシカからサミングを受けて結膜を負傷し、一時的に視力を失う状況に陥ってしまったためだ。試合は2度に渡って中断し、右目の回復を待ったが、短時間で回復するレベルのケガではなかった。

 このラストマッチを迎えるまで藤井のMMA戦績は28戦26勝2敗。昨年3月にはアメリカの格闘技サイトが選出するランキングでパウンド・フォー・パウンド世界1位に輝いた。だが、その2カ月後、米国で2敗目を喫した藤井はその座を奪われてしまう。引きずり下ろしたのは、女優業の傍らフィットネスの一環として始めた格闘技にのめり込んでしまったというジェシカだった。

 この試合後、藤井の脳裏に「もういいかな」という気持ちが芽生えた。一方で「このまま辞めたら後悔する」という思いもあった。そこでVTJ3rdでのラストマッチが決定するや、藤井は対戦相手としてジェシカを指名したのだ。実力的に適当な相手を選んで、有終の美を飾ろうという気持ちなど微塵もなかった。

右目を腫らしながらも満足感と充実感に満ちた引退式。

 9年に渡るプロ生活の中で、藤井は女子のカテゴリーをなかなか認めようとしない男性重視の格闘技界と常に闘ってきた。19もの一本勝ちは説得力のある勝利にこだわっていた証拠だ。藤井の心には、たおやかな反骨心が宿っていた。

 そんな藤井の覚悟を受け取った主催者は宇野薫や所英男の国際戦を差し置いて、リニューアル後のイベントは初となる大田区総合体育館でのビッグマッチのトリを藤井に任せた。とはいえ、現実はあまりにも残酷だった。偶発性のサミングが原因とはいえ、消化不良の一戦になったことは否めない。それでも、藤井は後悔はないと振り返る。

「これが、勝負の世界の現実。自分に起こったことは全部受け止めています」

 試合後に行なわれた引退式で右目を腫らしながら笑顔で10カウントを聞くことができたのは、諦めずにこの日を迎えられた満足感と充実感があったからにほかならない。笑顔で競技者生活を終えられる人生は素晴らしい。

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