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イチローの言葉に思う、
44歳・武豊の復活劇。
~衰えを払いのける技術と心~ 

text by

片山良三

片山良三Ryozo Katayama

PROFILE

photograph byNIKKAN SPORTS

posted2013/09/14 08:00

8月25日現在で重賞9勝は内田博幸と並びトップ。勝利数67でリーディング7位につける。

8月25日現在で重賞9勝は内田博幸と並びトップ。勝利数67でリーディング7位につける。

「昔できたことが今できない、ということが見当たらない」

「年齢に対する偏った見方をしてしまう頭を持っている人に対して、お気の毒だなと思うことはあります」

 今年10月に40歳となるイチロー選手の4000安打達成の会見で、特に印象に残ったのがこの2つの発言。話し手を44歳の武豊騎手に替えても、不思議なほど耳にしっくり入ってくることに気づいた。

 年間200勝オーバーを容易く成し遂げていた稀代のスーパージョッキーが、'10年3月の落馬事故で負った鎖骨骨折から突如暗転。4カ月の休業期間があった同年の69勝は仕方がなかったとしても、'11年の64勝、'12年の56勝は文字通りの「低迷」。ちょうど40代に突入したのと時期が重なったこともあり、衰えを指摘する声を払いのけることは武豊の突出した才能をもってしても難しかった。

美しいフォーム、多彩な戦略……「60歳まで乗っていたい」。

 肩の可動域が狭くなるのが、このケガ特有の後遺症。そうした状態で現場復帰を焦ったのが結果的に失敗だったのだろう。期待されたほどの成果が上がらず、それが武豊騎手の本質の劣化と捉えられたことで、騎乗馬の質も量も下がり続けるスパイラルを呼んだ。それと時をほぼ同じくして頻発した、大手馬主グループが武豊を“二軍落ち”に評価したというネガティブな報道の数々。「体は悪いところがありません。肩も腰も('02年に骨盤骨折)ケガをする前よりいいと実感しています」と訴えても、もうとっくに40歳を過ぎた人だから、という冷めた声にも苦しめられた。「風評被害……」と寂しそうにつぶやくことさえあったほどだ。

 冒頭のイチロー選手の言葉は、武豊騎手の心の叫びそのものでもあろう。馬に負担をかけない美しいフォームは健在だし、経験に裏打ちされた多彩な戦略は、まさに生けるレジェンドと言っていい。

「50歳までやれる」と言うのはイチロー選手だが、武豊騎手は「60歳まで乗っていたい」と早々に宣言している。アンチエイジングの旗手でもある。

 ダービー制覇のお立ち台で「ボクは帰ってきました!」とやった今年は、夏に入ってさらに快調。函館記念、札幌記念をトウケイヘイローで勝ち、小倉記念をメイショウナルトで勝って、「完全復活!」という大見出しが躍った。キズナでの凱旋門賞挑戦にも期待が高まる。

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