プロ野球亭日乗BACK NUMBER
「僕は野球を楽しむなんてできない」
規律の男、宮本慎也が球界に残す物。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNanae Suzuki
posted2013/09/02 10:30
「レギュラーで出られないのは引く時かなと感じた」と、引退の理由を語った宮本。34試合を残しての発表は、CS進出に望みをつなぐチームへの配慮だったという。
僕は、野球を楽しむなんてできない。
そうしてまとまりを欠いたまま大会は始まり、試合ではミスが続出。宮本にとっても、チームとしても不完全燃焼な戦いが続いた。結果は、準決勝で韓国に敗れ、3位決定戦でも米国に敗れ、ついにメダルには手が届かずに終わってしまった。
「負けた瞬間に携帯電話をいじっている選手がいるのを見てガッカリしました」
準決勝で韓国に敗れて茫然自失となった宮本の横では、若手選手が携帯電話でメールを打っていたのだという。
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その姿に宮本の心は無性に荒れた。
赤い靴下は携帯電話に変わっていたが、過去2度の国際大会を経験した自分が求めてきた強いチーム、日の丸を背負うチームの姿はそこにはなかった。
そこに宮本の悔恨があるのだ。
「好きで始めた野球だけど、プロに入った瞬間に野球が仕事になった。最近は『楽しみたい』と言うけど、僕は野球を楽しむなんてできない。仕事として19年間、向き合ってきたことが誇りという思いはあります」
19年間のプロ生活を振り返って、宮本慎也はこう胸を張った。
いつも必死で、上手くなること、勝つこと、強くなることを考え続け、共に戦うチームメイトにも同じ厳しさを求め続けた。
赤い靴下を許さないのは、少し古いのかもしれない。ただ、赤い靴下を許せないほどに、選手としての責任と規律を自らに課してきた。
その徹底した生き様が、この選手の魅力だったと思う。