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いま最も勝てる投手が重用する、
現代に甦った“古い”球種カーブ。 

text by

氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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photograph byNanae Suzuki

posted2013/07/17 12:25

いま最も勝てる投手が重用する、現代に甦った“古い”球種カーブ。<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

投球フォームから“ライアン”と呼ばれるヤクルトの小川泰弘。新人として1999年の上原以来となる10勝一番乗りを果たし、後半戦で勝ち星をどこまで伸ばせるか。

キレがないカーブを、なぜ使うのか?

「失投した時の保険になる」とヤクルトのバッテリーコーチ・中西親志は、カーブの効果を語る。

「プロのレベルだと、球種をいくつか持っていても(ひとつの球種を)狙われると捕えられる。たとえば、うちの小川は球種は多いけど、単調になると痛打される。そんなときに、カーブが効果的になる。小川のカーブは、実はそんなにすごいキレがあるわけじゃない。球自体は大したことないんだけど、他の球種が狙われた時にちょっとしたタイミングのズレを生んでくれる。つまり、打ち損じを増やしてくれる球なんです。カーブは緩急差っていう意味と、他の球を生かすという効果があると思う。小川は今シーズン、打たれていた時期は緩急が上手く使えていなかったんだけど、カーブを使っている今は、それが上手くできていますね」

 セ・リーグで唯一10勝を挙げている小川だけに、非常に興味深い発言である。小川のカーブはそれほどキレがあるわけでもないにもかかわらず、十分な武器になるというのだ。

 小川の登板時にマスクをかぶることの多い、ヤクルトの捕手・中村悠平は「カーブは、狙っていなくても打たれてしまう可能性があるので、非常に怖いボールです。でも、小川の場合は、配球が偏らないためにも、カーブを使わなければいけないと思います。カウント球だけではなく、勝負球としても使うようにしています」という。小川本人も「調子が悪かった時は、球種を絞られていたと思うんです。カーブは一歩間違えるとホームランになってしまう危険な球ですけど、そこは思い切り腕を振ることで、上手く投げ分けることが必要なんだと思います」と語る。

「他の球種が生きてくるので、自分を楽にさせるボールだと思う」

 小川同様、それほどのキレではないにもかかわらずカーブを投げ続ける投手がいる。

 オリックスのエース・金子千尋である。金子にカーブについて尋ねると、ちょっと驚いた表情をして独自の“カーブ論”を語った。

「僕のカーブですか?(笑) あまりいい球じゃないと思うし、基本的に投げるのも苦手な球種です。それでもカーブを投げる理由は、スピードの差で緩急をつけられるのとバッターの目線を狂わせるため。ストレートとスライダーの速い球だけだとバッターの目が慣れてくるんです。僕の投げるカーブは、変化が大きめの縦に曲がるボールなんですけど、ストライクが入らなくても目線はずらせるかなと思う。他の球種が生きてくるので、自分を楽にさせるボールだと思うし、ストライクが入らないからといって投げないのも、もったいないと思いますしね」

 新人の小川と並べて語るには、オリックスのエースに対して少し失礼な気もするが、金子も過去には投球が単調になり、痛打される場面が少なくないピッチャーだった。2010年に17勝を挙げたあたりからカーブの使い方が格段に上達し、パ・リーグを代表する投手として成長を遂げている。

【次ページ】 150キロのストレートと特殊な曲りのナックルカーブ。

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