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<競泳育成の新スタイル> 平井伯昌コーチと東洋大水泳部、常識への挑戦 

text by

折山淑美

折山淑美Toshimi Oriyama

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photograph byTakao Fujita

posted2013/07/19 06:01

<競泳育成の新スタイル> 平井伯昌コーチと東洋大水泳部、常識への挑戦<Number Web> photograph by Takao Fujita

左から田垣貞俊コーチ、山口観弘、金指美紅、宮本靖子、萩野公介、内田美希、平井伯昌監督。

名伯楽のもと東洋大水泳部が、新たな旋風を起こそうとしている。
最強スイマーを量産する米国をモデルに、
トップ選手たちを集めて切磋琢磨できる場を日本にも作った。
この既存システムの変革は、日本水泳界のレベルを進化させるのか。
成否は門下生として英才教育を受けるゴールデンエイジたちが握っている。

平井伯昌監督の元に萩野公介、山口観弘ら強豪選手が集った東洋大。
7月20日に開幕する世界水泳2013を前に、Number830号に掲載された特集を
特別に全文公開します。

 北島康介を育てた名伯楽で競泳日本代表ヘッドコーチの平井伯昌が東洋大准教授兼水泳部監督に就任した。ロンドン五輪銅メダリストの萩野公介や、200m平泳ぎ世界記録保持者の山口観弘といったゴールデンエイジたちがこぞってその門下生となった。そこに「チーム平井」の北島康介や松田丈志、寺川綾、加藤ゆか、上田春佳という五輪メダリストも合流している。

 これまでスイミングクラブや大学などでマンツーマンに近い形で選手を強化することが多かった日本水泳界において、多数のトップ選手が互いに刺激し合いながら成長しようという試みは、水泳界の未来に一石を投じるものだ。萩野は目を輝かせて「水泳好きが集まる日本最高の場所」と語り、山口は「世界基準」と誇る。一大学の水泳部で新しい旋風が巻き起ころうとしている。

日本水泳の強化本拠地にほど近い大学施設に現れた豪華メンバー。

 チームが拠点にするのは、日本水泳連盟が強化の本拠地にする国立スポーツ科学センター(JISS)にも近い、板橋区清水町の東洋大学総合スポーツセンターだ。大きな窓から早朝の光りが差し込むプールは、1限目に授業がある部員たちの早めの練習が終わろうとする頃になると空気感が変わった。萩野や山口、ロンドン五輪女子自由形リレー代表で同じく1年生の内田美希に加え、松田や寺川、加藤も姿を見せた。この日の練習は少し軽めのメニュー。ストレッチを終えて一斉に泳ぎ始めた選手たちに向かい、平井は時折笑顔を見せながら声をかける。

 27年間続けてきたスイミングクラブコーチからの転身を、平井はこう語る。

「'08年の北京五輪が終わった後、僕が指導する選手は上田春佳だけになったんです。だから彼女をメインにして下の選手をジックリ育てようと考えていたけど、寺川綾や加藤ゆかが移籍してきた。それがなかったらコーチとしての僕の実績にも空白ができていたと思う。だから次のロンドン五輪のあとは、春佳はもしかしたら続けるかもしれないけど、どうしたらいいんだろうと少し悩んでいたところに、大学の教員の話があったので、これまでの経験も踏まえて、違う形でやれるかなと思ったんです」

 遡ること10年前、アテネ五輪前年の'03年にトップ選手の中村礼子が平井の下へ移籍し、北島と一緒に練習をすることになった。実績のある選手が五輪直前に所属を移るのは異例のことだ。この件に加え、北京後の寺川や加藤の移籍時も、周囲には「平井は選手を引っ張った」という雰囲気があった。そういう状況に辟易する面もあって、大学の水泳部ならば進学という形で興味のある選手に声をかけることができるところに魅力を感じたという。

【次ページ】 「水泳界に“大学院”のような場があってもいい」

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