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ママとなった安藤美姫に感じた力強さ。
「母の強さ」をナメちゃいけない! 

text by

吉井妙子

吉井妙子Taeko Yoshii

PROFILE

photograph byNIKKAN SPORTS/AFLO

posted2013/07/09 12:55

ママとなった安藤美姫に感じた力強さ。「母の強さ」をナメちゃいけない!<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS/AFLO

出産の発表後に出演したアイスショーでは、「多くの方に会場まで足を運んでいただき、感謝の気持ちで一杯です。ありがとうございました!」と笑顔で挨拶をした安藤選手。

 安藤美姫選手がママになったニュースを聞いたとき、これまでの安藤選手に対する見方がガラリと変わった。彼女には何度かインタビューしたことがあったが、10代前半の頃からメディアの取材攻勢を受けてきたせいか、他人の視線に非常に敏感で、警戒心が強く、感情の起伏が激しい女性という印象を抱いていた。

 その一方、彼女のフィギュアスケーターとしての技術、芸術性は驚くほど高く、世界選手権で2度チャンピオンになったが、まだまだ高みを目指せる選手だと確信していた。

 女性として史上初めて4回転ジャンプを競技会で決め、彼女が16歳になったばかりの頃にインタビューした時の声が今でも耳から離れない。

 なぜ4回転ができるのか、その秘訣を尋ねると、間髪を入れずさらりと言ってのけた。

「練習すれば誰でも出来ますよ」

――ほかの選手も挑戦していますが、跳べていないのが現実です。

「いや、やろうとしていないだけ。誰にだってすぐ出来ますよ」

 その言葉から、彼女は4回転を、大量の汗と引き換えに薄紙一枚一枚を重ね合わせるように習得したのではなく、遊び感覚で覚えたのだと悟った。同時に、とんでもない選手が現れたと胸が高鳴ったものだ。

 だがそれ以降、あまりにも容赦ない世間の視線を浴びたせいか、無邪気な心が影を潜め、自分を守るために心にバリアを張ったように思えた。多感な少女にはそういう選択しかなかったのだろう。そしてこういい続けた。

「私を本当に支援して下さるファンの方だけが分かってくれればいい」

 その言葉を聞くたびに、気持ちは理解できるが、何とももったいないと思ったものだ。心を開放すれば、さらに多くの人を魅了する演技が出来るのに――と。だがそれが、彼女が選んだスタイル。もったいないと考えるのは私の勝手な想いだった。

最も驚いたのは、出産後すぐに現役に戻ると決断したこと。

 ところが、出産発表のテレビインタビューを見て、私の考えは180度変わった。ガラスのように繊細な選手と信じ込んでいた彼女が、毅然とし、母になった喜びを語る姿は眩しいほど美しく、全身から大木のような力強い生命力を溢れさせていた。

 多分、シングルマザーになる決断は、これまで経験したすべての悩みを凌駕するほどの覚悟を要したに違いない。母を始めとする身近な人たちの大反対にも遭ったと語っていた。

 だが彼女は、新たな生命を宿した以上、その命を世に送り届けるのが使命と悟ったのだろう。何より驚いたのが、出産後すぐに現役に戻ると決断したことだった。人として、女性として、そしてアスリートとしての逞しさと覚悟に、畏敬の念すら覚えた。

 たまたまその翌日、30代~50代の女性管理職数人と食事をする機会があった。自然と、安藤選手の出産の話題になる。彼女たちはみな子育てしながら管理職に就いただけに、安藤選手に一様にエールを送った。それが日本社会の当たり前の感覚だと考えていた。

【次ページ】 ロンドン五輪女子バレー銅メダルの大友愛さんの場合。

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