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王者の魅力を引き出した
35歳の老獪なテクニック。
~山中慎介とのボクシング名勝負~ 

text by

前田衷

前田衷Makoto Maeda

PROFILE

photograph byBOXING BEAT

posted2013/04/28 08:00

ツニャカオの奮戦に、長谷川穂積も「僕が見てきた中で一番の試合だった」と振り返った。

ツニャカオの奮戦に、長谷川穂積も「僕が見てきた中で一番の試合だった」と振り返った。

 4月8日に両国国技館で行なわれたトリプル世界タイトル戦。メインのWBCバンタム級戦は、チャンピオン山中慎介が、35歳のフィリピン人挑戦者マルコム・ツニャカオを最終12回に劇的に倒し、自慢の強打を存分にみせつけた。

 勝者も見事だったが、一方でこの試合をクラシックな好勝負に仕立て上げた敗者の奮闘ぶりにも称賛を送りたい。

 試合前の予想は、筆者の頭の中でも両極端に分かれていた。いま乗りに乗っている山中の強打が老雄を粉砕し、ワンサイドのKO劇に終わるか、反対にツニャカオが豊富な経験を活かして山中の強打を封じるか。予想がつかないからこそ興味を引く好カードなのだが、結果的に予想は半分当たり、半分は外れた。

 3回に山中の左ストレートが見事に決まり、ツニャカオを2度倒す。このままKOで終わっていたらツニャカオは惨敗だが、荒波に翻弄される小舟のようになりながら、どうにかピンチを耐え抜くと、その後はしぶとく反撃。35歳とは思えないスピードに乗せたジャブ、左ストレートで若い王者を手こずらせた。

ツニャカオも偉大なフィリピン人ボクサーとして記憶されるはず!

「イーグルアイ」の異称もあるツニャカオの眼光鋭い風貌をみるにつけ、昔はこんな表情をした強豪が、この国から何人も来日したことを思い出す。古くはベビー・ゴステロ、レオ・エスピノサ、ダニー・キッド。そして今のマニー・パッキャオの先輩ともいうべき'60年代の国民的英雄フラッシュ・エロルデ。この親日家の王者はツニャカオ同様長く日本に住みトップ選手のほとんどと対戦した。

 フィリピン選手は柔軟な体を駆使するテクニシャン型が多い。来日する彼らは引き立て役を期待されたが、逆に日本選手を苦戦させ大いに鍛えてきた。彼らは日本ボクシング界の恩人といっていい。

 ツニャカオもそんな1人として記憶されるはずだ。最後は再び山中の左強打を浴びて力尽きたが、試合後に潔く山中の強さを認めつつ、「もう一度対戦したい」と付け加えるのを忘れなかった。

 今回ツニャカオは自力で挑戦権を獲得し、実に12年ぶりの世界戦のリングに立ったが、こんな危険なベテランを進んで相手に選ぶ王者もいないと改めて山中の姿勢に納得したものである。山中のボクシングの魅力を十二分に引き出してくれたフィリピンのボクサーに感謝したい。

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