メディアウオッチングBACK NUMBER

ナマの証言を丹念に集め、
『10・8決戦』を活写した力作。
~「国民的行事」の真相に迫る~ 

text by

馬立勝

馬立勝Masaru Madate

PROFILE

photograph bySports Graphic Number

posted2013/03/29 06:00

ナマの証言を丹念に集め、『10・8決戦』を活写した力作。~「国民的行事」の真相に迫る~<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

『10・8巨人vs.中日 史上最高の決戦』 鷲田康著 文藝春秋 1700円+税

「野球は読むスポーツ」という。米国スポーツ記者たちの説だ。確かにスポーツ関係書の中で野球本の多さは群を抜いている。開幕を待つ今、野球の本を手にウォーミングアップしておくのはいいことだ。ここに『10・8』が登場した。1994年10月8日、巨人・長嶋監督の言う「国民的行事」、中日対巨人戦のドキュメントである。

 レギュラーシーズン130試合目。同じ勝敗数、同じ勝率で首位に並んだ中日と巨人はこの最終戦にペナントを賭けて戦った。日本プロ野球史上初めての同率首位チームの最終決戦である。追試のようなプレーオフ制度でペナントの価値が薄れ、また、今後も続くはずの引き分け制度で、将来にも起こりにくい大変な試合だった。

 この試合の再現に著者が採用した手法がユニークだ。徹底したインタビューからなる織物を作り上げた。語るのは監督、コーチ、選手、審判員、フロントはもちろんグラウンドキーパー、トレーナー、中継テレビのアナに解説者、担当記者に果てはラーメン屋の主人など、40人余り。一つの出来ごとについての違った証言をナマのまま提出した。

長嶋監督は「勝つ! 勝つ! 勝つ!」を本当に三回言ったのか?

 たとえば球場に乗り込む直前の宿舎ミーティング、長嶋監督の「勝つ! 勝つ! 勝つ!」の三連呼。選手に火を付けた伝説のアジテーション(と言っては失礼)だが、「三回さけんだ」の多数派の中に一人、「選手のように興奮していなかった」と前置きして広報部員はきっぱりと「勝つ、一回だけしか言っていません」。

 また、たとえば、巨人がビデオ映像解析で球種による投球のクセを見破っていて、それが4回に村田真に打たれた本塁打につながったと主張する中日・今中=中村のバッテリーに反論して、村田は「投球のクセがわかっていたらあんな打ち方はしない」と断言する。そして、こと細かに自分のバッティングを解説する。

 ごつごつした手触りの談話が力技で織られ、浮かんでくるのは空前絶後の試合に参加できた者すべての喜び、誇り、自負である。

【次ページ】 意地を張りとおして敗れ去った高木監督の“渋さ”。

<< BACK 1 2 NEXT >>
1/2ページ

ページトップ