Sports Graphic NumberBACK NUMBER

<ロンドンでの苦闘、絶対王者が告白> 内村航平 「オリンピックには魔物がいた」 

text by

矢内由美子

矢内由美子Yumiko Yanai

PROFILE

photograph byKosuke Mae

posted2012/12/13 06:01

<ロンドンでの苦闘、絶対王者が告白> 内村航平 「オリンピックには魔物がいた」<Number Web> photograph by Kosuke Mae
世界選手権個人総合3連覇を成し遂げ、王者として臨んだロンドン五輪。
彼に死角などないはずだった。ところが団体予選では思いもよらぬミス。
強気な台詞を発し続けた男は意外な言葉を口にする。魔物――。
この言葉はいつ王者の内面に現われ、どのように打ち倒したのか。
日本中をわかせた金メダリストが、内なる敵と戦った“夏”を振り返る。

「襲ってくる魔物を倒したい。その気持ちだけでやっていた」

 体操史上初の世界選手権個人総合3連覇という実績をひっさげ、強気な言葉と他の追随を許さない美しい演技を武器に、心身とも死角のない状態でロンドン五輪に臨んだ内村航平。その強さは、ライバルたちが戦わずして金メダル争いを諦め、「内村以外の選手で銀メダルを争う」と言われるほどだった。

 けれども、それほど突出した存在である彼でさえ、五輪では苦境に直面した。団体予選では思いもよらぬミスを連発。団体決勝ではどうにか銀メダルを死守したものの、最後のあん馬の降り技で失敗した。

 負の連鎖を振り切って個人総合金メダルを獲得し、種目別ゆかの銀メダルで大会を締めくくるまでの間、王者をあれほど苦しめたものとはいったい何だったのか。

 彼の口から出てきたのは「魔物」という意外な言葉だった。

団体予選の鉄棒とあん馬で初めて味わった、“落とされた”感覚。

――ご自身の中で「魔物」という言葉が初めて浮かんできたのはどのタイミングだったのですか。

「大会の一番最初、7月28日にあった団体予選が終わって、選手村に戻ってからです」

――団体予選の鉄棒では、演技構成の最後に入っているコールマンで落下。あん馬でも落下。両方とも普段の内村選手なら落ちるような場面ではありませんでした。

「最初の種目だった鉄棒で落ちてからずっと、なぜ落ちたのかを考えていました。考えながらあん馬をやっていると、あん馬でも落ちてしまいました。鉄棒のコールマンは練習でも何回か落ちたことがありますが、あのときは初めて、落ちたというより“落とされた”ような感覚。飛び出した時に、左肩を後ろから引っ張られたような感覚があったんですよ。

 あん馬も、落とされたような感じがしました。後で映像で見るともちろん自分のミスなのですが、感覚的には外から力を加えられて落とされたという表現が一番合う感じでした。選手村に戻ってからもずっと考えて、ああ、これが魔物かと思いました」

――「魔物」という言葉自体は知っていたのですか。

「五輪は小さい頃から見ていたので、五輪には魔物がいるとか、何が起きるかわからないというのは、ずっと知っていました。ロンドンでそれが自分の身に降りかかってみて、ああ、これか、と(笑)」

【次ページ】 “いつもの内村航平”と違っていた、心の持ち様とは?

<< BACK 1 2 NEXT >>
1/2ページ
関連キーワード
内村航平

ページトップ