野球善哉BACK NUMBER
大谷翔平は次世代の野茂になれるか。
高卒即MLB行きで日本球界が変わる!?
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2012/10/22 12:30
記者会見でメジャー挑戦を表明した大谷。隣に立つのは父親の大谷徹氏。過去に例のない挑戦を支えるためには、家族や学校など周辺の協力も必須となるだろう。
ついに、扉は開かれた。
花巻東の大谷翔平がメジャーへ挑戦する意思を表明した。
「入学当初からの夢でしたし、厳しい世界で自分を磨きたい」
会見で大谷はそう語ったそうである。大谷とMLB球団との契約が実現すれば、日本の高校生のトップクラスの選手が日本のプロ野球を経ないでアメリカに渡る初めてのケースとなる。球史に残る決断を下した若きアスリートの勇気に称賛を送りたい。
過去に、希望を口にした選手、あるいはMLBの球団側が食指を動かした選手はたくさんいた。だが、それらはいずれも実現しなかった。
実際、大谷を巡る噂もさまざまなものがあった。
日本球界からの圧力がかかっただの、MLBの評価ほどに本人に渡米の意思がないなどである。過去、日本人選手をスカウトして成功に導いているあるMLB球団の日本担当スカウトが、熱心に大谷を視察していたというまことしやかな噂も頻繁に聞こえてきていた。
しかし、さまざまな噂の渦中にある当の大谷に直接会った時、大谷の口から発せられたメジャーへの想いと、ある憧れの選手の名を聞いて、私は「あっ、これ(メジャー行き)は本気だな」と確信するに至った。
「野茂さんがやったみたいなことを果たしたい気持ち」
大谷はつい最近、雑誌Number(814号)のインタビューでこんなことを言っていたのだ。
「野茂さんがやったみたいなことを果たしたい気持ちがあります。野茂さんがメジャーに行ったころは、まだ向こうで結果を出した選手はいませんでした。初めて成功した人だったから衝撃も大きかったと思うんです。高校生でアメリカに行くということも一つの道だと思う。それをやってみたいという気持ちがあるんです」
よく考えてみてほしいのは、大谷翔平は1994年生まれということである。
野茂英雄がドジャースに移籍したのが'95年のことだから、そのフィーバーは見ていないことになる。たとえ野茂の活躍をおぼろげに理解していたとしても、開拓者となったという事実くらいではないだろうか。
そんな大谷が野茂の名前を挙げたのだ。
これまで数多くのドラフト候補を取材してきたが、彼らの口から「野茂英雄」の名前を聞いたことはない。ドラフト候補の大半が目標に挙げるのは松坂大輔(レッドソックス)で、近年はダルビッシュが増え、田中将大(楽天)、前田健太(広島)と続く。世代から考えても、至極まっとうだ。