スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
クラブは赤字、選手はフェラーリ……。
「余命5年」のリーガに未来はあるか?
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAFLO
posted2012/10/06 08:01
メッシ、C・ロナウドという世界最高の選手二人を抱えるリーガ・エスパニョーラの足元が揺らいでいる。
不況の煽りを受け、ファンのスタジアム離れも。
教授の言う「一般的な危機」とは、ヨーロッパ全体で続く経済危機がもたらす影響を指している。中でもギリシャに次いで深刻な状態にあるスペインではスポンサーを失い経営難に陥った多くのクラブが苦しい経営を強いられており、今夏に費やした補強資金の総額はイングランド、イタリア、ドイツ、フランス、そしてロシアをも下回った。
不況の煽りを受け、ファンのスタジアム離れも進んでいる。第4節までの1部全40試合の観客動員数103万6244人は、昨季より10万2700人少なく、年間シート購入者の数も全クラブ合わせて1万2200人減少している。
以前は高い集客率を保障していたレアル・マドリーとバルセロナのアウェーゲームも、近年はスタンドを満員にすることが少なくなった。スペイン現地紙発表の数字によると、オサスナ対バルセロナ戦は79%、セビージャ対レアル・マドリー戦は66%、ラージョ対レアル・マドリー戦は66%、ヘタフェ対バルセロナ戦は59%、ヘタフェ対レアル・マドリー戦は僅か47%の客入りにとどまった。
年俸順位でメッシが9位という数字が意味するもの。
「各クラブが支払い義務すら果たせていない傍ら、選手達はフェラーリで通勤している」
もう1つの「クラブが自らもたらした危機」について教授は、皮肉たっぷりにそう言って高騰し続ける選手の給料を指摘した。教授が調査した'10-'11シーズンの5大リーグの総収入における人件費の割合は驚くべきものだ。最も低いブンデスリーガで65%。プレミアリーグの84%、リーガ・エスパニョーラの81%はまだ低い方で、リーグ1は93%、セリエAに至っては102%と、総収入以上の支出を人件費だけで費やしているのである。
現在フットボール界ナンバーワンの高給取りはサミュエル・エトー(アンジ)の2000万ユーロで、ズラタン・イブラヒモビッチ(1450万/PSG)、ウェイン・ルーニー(1380万/マンチェスター・ユナイテッド)、ヤヤ・トゥーレ(マンチェスター・シティ/1300万)、セルヒオ・アグエロ(マンチェスター・シティ/1250万)、ディディエ・ドログバ(上海申花/1200万)、フェルナンド・トーレス(チェルシー/1080万)らが続く。
一昨年の契約更新で大幅な年俸アップに成功したルーニーを除き、他はここ数年のうちに金満オーナーをバックにつけた成金クラブへと移籍した選手ばかりだ。現在世界最高の選手と言われているリオネル・メッシ(バルセロナ/1050万)とクリスティアーノ・ロナウド(レアル・マドリー/1000万)が9、10位に位置していることからも、これらのクラブがいかに常軌を逸した投資を行い、市場の相場を狂わせているかが分かるだろう。