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偉大な記録からツアー選手権制覇へ。
「58」達成の石川遼が目指す頂点とは?
text by
塩原義雄Yoshio Shiobara
photograph byTaku Miyamoto
posted2010/06/02 10:30
あらためて断るまでもなく、中日クラウンズで石川遼がマークしたスコアだ。
奪ったバーディーは12個。6打差を逆転し、さらに2位に5打差をつける破天荒なドラマを演じてのけた。
はたして「58」とは、どんな世界なのだろうか。
メジャーである日本ゴルフツアー選手権にのぞむ石川遼の、「58」を振り返る。
首位の丸山茂樹を6打差で追う展開で迎えた中日クラウンズ最終日。前夜、石川はいろいろなことを考えたという。特に父親である勝美氏からのひと言が、頭の中にこびりついていた。
「そんなプレーじゃギャラリーは楽しめない。ファンが離れるよ」
父親だからこそ言えたのであろう、3日目までの石川のプレーを評した厳しい指摘だった。
舞台となった名古屋ゴルフ倶楽部・和合コースは、高い戦略性を求められるコースとして知られている。「攻める」「守る」「避ける」を状況に応じて組み合わせ、危険を避けて手堅くパーを重ねながらチャンスを待つ。それが、このコースでスコアをまとめていく定石とされてきた。つまり「守る」「避ける」が「攻める」に優先される舞台であるというのが常識であったわけだ。リスクマネジメントこそが、攻略のカギであった。石川も3日目まで、その常識にとらわれてきたきらいがある。グリーン上でパットをショートさせるシーンが、再三見られた。勝美さんが指摘した「そんなプレー」とは、ときに消極的とさえ思われる再三のシーンのことだった。
和合コースに振り回されていた自分を取り戻した最終日。
ギャラリーにも楽しんでもらえるプレー。積極果敢に攻めまくるプレーを身上とし、常に心掛けてきたはずなのに、和合の常識にとらわれていたのではないか。せめて最終日は、本来の自分のスタイルを貫こう。ていねいにパーを積み重ねるのではなく、そのパーを頭の中から消してしまう。バーディーかボギーか。ひたすら攻めるゴルフに徹することをあらためて自分に言い聞かせていた。
もちろん逆転への野望も密かに胸に抱いていた。
「トップグループよりも先に回る自分が4番を終えて2アンダーをマークしておけば、ちょっと意識してもらえるのじゃないか。できれば3アンダーで通過したい」
1番をバーディー発進し、2番パー5でイーグルなら3アンダー。悪くとも連続バーディーでスタートしていく。具体的にスコアまで考えていたのはここまでで、あとは、ひたすら攻めに徹するということだけだった。6打差を追う。チャンスがくるのを待つのでは間に合わない。チャンスを自分で積極的に作り出していく。守らなければならないものなど、何もなかった。リスクに目をつぶって攻めることだけに集中する。
『イソガバ、マワルナ!』
これは、石川が自身のブログのタイトルにもしている生き方への姿勢で、最終日のゴルフもまた急がなければ追いつき、追い越せない状況であった。