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圧倒的な強さで連覇を達成しても、
バルサの攻撃サッカーは発展途上。 

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中嶋亨

中嶋亨Toru Nakajima

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photograph byDaisuke Nakashima

posted2010/05/19 10:30

圧倒的な強さで連覇を達成しても、バルサの攻撃サッカーは発展途上。<Number Web> photograph by Daisuke Nakashima

来季の放出も囁かれる中、優勝記念セレモニーで“照れ顔”を浮かべるイブラヒモビッチ

 最終節を4-0と完勝し、レアル・マドリーの逆転優勝を阻んで連覇を達成したバルセロナ。勝ち点99を獲得し、レアルとの直接対決でホーム、アウェー共に勝利してのリーガ制覇は、まさに偉業といえるだろう。

 しかし、昨年すべてのタイトルを獲得した“6冠”王者の今季獲得タイトルが国内リーグただ一つというのは、若干の物足りなさを感じる。圧倒的な成績でリーガを制し、世界最高の攻撃サッカーを披露しているバルサがそれに見合うだけのトロフィーを勝ち取れなかったということは、ライバルたちが対処法を見つけつつあること、そして、彼ら自身にさらなる改良の余地があるということも示しているのではないだろうか。

 結果から見れば、今季のバルセロナはトーナメント戦で勝負強さを発揮できなかった。

 ベスト16でセビージャに敗れた国王杯では、過密日程を考慮してシャビ、イブラヒモビッチを温存したのが裏目に出た。ファーストレグを1-2で落とし、セカンドレグで猛反撃を仕掛けたが、粘るセビージャを崩しきれなかった。

 インテルに敗れたCL準決勝は、アウェーでのファーストレグで先制しながらカウンターから3ゴールを叩き込まれた。セカンドレグは地の利を生かして試合を完全に支配したが、あと1点が遠く、決勝進出を逃した。

インテル守備陣に潰された「マイナスの折り返し」のチャンス。

 いずれの敗戦も、あと一歩というところまで敵を追い詰めながら、攻めきれずに敗退した。とりわけ、インテルとのセカンドレグでは、ほぼ90分間相手ペナルティエリア前でボールを保持し続けながら、インテルが築いた壁を破ることができなかった。

 バルサはこの試合、開始直後から逆転のために攻撃を仕掛け続け、ボール支配率は70%を超えていた。前半の半ばを過ぎた頃からペナルティエリア前に貼り付いたインテルに対し、容易にクロスを放り込むことができた。特に右サイドバックのダニエウ・アウベスは繰り返しクロスを放った。

 しかし、それらのクロスが「マイナスの折り返し」になることは、ほとんどなかった。インテルの守備陣がサイドのスペースを消しきっていたため、D・アウベスはサイドを抉ることができず、浅い位置からクロスを蹴り続けたのだ。

 ルシオ、サムエルをはじめ巨漢DFを揃えるインテル守備陣にしてみれば、浅い位置からのクロスは怖くない。クロッサー(例えばD・アウベス)とマークすべきFWのポジションを同時に視野に収めることができるからだ。さらに上記2名のセンターバックは空中戦で無類の強さを発揮する。バルサのクロスはことごとく跳ね返された。

幾重にも渡るマークでメッシは完全に封じ込められた。

 クロスが跳ね返され続ける中でバルサの切り札であるメッシは、どのようにプレーしていたのか。メッシは長時間にわたって、目の前に立ちはだかる複数のDFを前に、ドリブルを仕掛けるスペースがないため、決定的な仕事ができずにいた。

 それでもメッシのドリブルは、アーセナルのベンゲル監督をして、「プレイステーションの世界」と言わしめるほどの異次元のものだ。わずかなスペースを手にすれば、目前のマーカーを確実に抜き去ることができる。しかし、マーカーが2人目、3人目……となれば話は別。インテルは必ず複数のマーク、そして幾重にも守備網を敷き、メッシの突破を許さなかった。言い換えれば、メッシには寸分ものスペースを与えなかった。

【次ページ】 グアルディオラはインテル攻略法を見出したのだが……。

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