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<ナンバーW杯傑作選/'02年6月掲載> 日本は燃え尽きたのか。 ~決勝T・トルコ戦、空虚な敗北~ 

text by

金子達仁

金子達仁Tatsuhito Kaneko

PROFILE

photograph byMichi Ishijima/Naoya Sanuki/Kazuaki Nishiyama(JMPA)

posted2010/05/19 10:30

 ベルギーと引き分けることができたのは、相手ディフェンダーの信じられないようなミスが、信じられないような時間帯に出たからだった。先制された試合に1回しか勝ったことのなかったチームは、ワールドカップ予選で先制した試合すべてに勝利してきたチームと引き分けたことにより生まれ変わった。冴えないカボチャは、黄金の馬車へと変身したのである。

 チュニジアに勝つことができたのは、トゥルシエ監督の采配があたったからだった。後半開始と同時に、彼は柳沢と稲本を下げ、森島と市川を投入する。引き分けでも決勝トーナメント進出が決まるという状況を考えればかなり強引なメンバー交代だったが、結果的にこれがものの見事に的中する。代わって入った2人の選手は、1人がゴール、もう1人はアシストという最高の結果を残した。

 それゆえ、日本はトルコに敗れた。ベルギーと引き分け、チュニジアに勝ったがゆえに、トルコに苦杯を喫した。

ベルギー戦でかけられた魔法は一瞬で効力を失った。

 日本がトルコに勝つためには、自分たちが先制点を奪うしかなかった。ベルギーを相手に引き分けたとはいえ、リードを許した際のモロさが完全に解消されているはずもなかったからである。ところが、絶対に奪われてはいけない先制点を、日本は自分たちのミスからプレゼントしてしまう。前半12分、バックパスのミスからCKを与えてしまったのも、そこに飛び込んできたウミト・ダバラを完全なフリーにしてしまったのも、これまでの日本にはなかったミス、グループリーグでは相手にしか起こらなかった「考えられないミス」だった。

 ベルギーのミスによって日本にかけられた変身の魔法は、この瞬間、突如として効力を失った。ベルギー戦では、先制された恐怖を相手のミスが打ち消してくれたが、同じ轍をトルコは踏んでくれなかった。圧倒的な歓喜の直後に待ち受ける魔の時間帯を乗り切られたことで、試合は膠着してしまった。

 こうなると日本は苦しい。ロシア戦、チュニジア戦と見違えるようなサッカーを展開した選手たちは、平凡なミスを繰り返す3週間前の日本代表に戻ってしまった。

 それでも、前半のうちはまだ日本にも勢いが残っていた。トルコの早い出足に苦しみながらも、この大会で初めてスタメンで起用された三都主が伸び伸びとプレーし、日本にはチャンスを、トルコにはイエローカードをもたらしていく。ベルギー戦でビルモッツにオーバーヘッドを決められた時には恐怖に満ちた沈黙に包まれたスタジアムも、この日はすぐに活気を取り戻し、選手たちにエネルギーを送り続けた。前半41分には、ゴール正面で得たFKを三都主が直接狙い、あと数センチ内側にズレていれば……というギリギリのところでバーに阻まれる。前半が終わった段階では、試合の行方はまだわからなかった。

<次ページに続く>

【次ページ】 采配的中の快感を忘れられなかったトゥルシエ。

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