MLB東奔西走BACK NUMBER
現役唯一のナックル投手が初球宴!
R.A.ディッキーが見せる正統なる魔球。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2012/07/07 08:02
現役メジャー投手で唯一のナックルボーラーであるR.A.ディッキー。今シーズン、前半戦ですでに自己最多となる12勝を挙げ、防御率2.15、奪三振116(7月4日現在)と、37歳にして大ブレイクしている。
ディッキーのナックルの秘密は“高さ”と“球速”。
ひとつには、他の投手たちと同様、年齢的にナックルボーラーとしての円熟期を迎えているようだ。このあたりの秘密を本人はボールを投げる“高さ”だと説明している。
「自分が最も意識しているのはボールを投げる高さだ。もちろんボールがどちらに曲がっていくのかは自分でもわからない。ただある程度の球速でしっかり正しい高さで投げることができれば、そのほとんどがストライクになると自信を持っている」
実はもうひとつ、ディッキーと他のナックルボーラーとの大きな違いは球速にある。
これまでナックルといえば時速100キロ前後ぐらいの遅い球が一般的だったが、ディッキーのナックルの球速は130キロ前後と、時折織り交ぜる真っ直ぐと遜色ない速さを誇る。
つまり球が速い分変化が大きくぶれる前に捕手のミットに到達するためストライクゾーンに集まりやすく、さらに変化が速く鋭いため、普通のナックルよりも一層打者の見極めが難しくなっているのだ。
これがディッキーのナックルを最強の武器に仕上げているのである。
「球宴でナックルの正当性を証明したい」と意気込む。
「オールスター戦に選ばれるのは単に光栄なだけでなく、ナックルボールに対する正当な評価をもたらしてくれるのではないか。まだ多くの人がナックルをギミックだと考えている。誰だって過小評価されるのは嬉しいとは思わない。自分はナックルが評価以上のものだということを証明したい」
野球の強豪校であるテネシー大学から1996年に、レンジャーズからドラフト1巡目指名を受け、鳴り物入りでプロ入り。2001年にメジャー初昇格を果たしたもののずっと低迷を続けた。そんなディッキーが活路を求め2006年にナックルボーラーへと変身を遂げた。ナックルは、やはり現在の自分自身を築き上げた原点だけに、その思い入れも人一倍といったところだろう。
ディッキーといえば、昨年オフに今シーズンの年俸を費用に充て、インドの少女売春撲滅を目指す慈善団体の募金活動を目的としたキリマンジャロ登山を敢行。さらに今年3月に出版した自叙伝では、少年時代に受けた性的虐待や妻との確執から自殺を考えた過去を赤裸々に語るなど、フィールド外での話題を数多く振りまいてきた。
そんな男がいよいよ本業のマウンドの上でもスポットライトを浴びようとしている。オールスター戦で彼はナックルの評価を高めることができるのか、注目したい。