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レアルとアヤックスの「顧客」は誰か?
利益モデルが企業を特徴づける。
text by
葛山智子Tomoko Katsurayama
photograph byBongarts/Getty Images
posted2012/05/15 10:30
1992年にアヤックスの下部組織に入団したスナイデルは、2012年にトップチームデビュー。5シーズン在籍しゴールを量産した。2007年にレアルへ移籍。2009年にインテルへ移籍後はセリエA5連覇、イタリア史上初の3冠達成に貢献している。
2011-12チャンピオンズリーグ。レアル・マドリーと昨年の覇者バルセロナが準決勝で姿を消し、バイエルンとチェルシーの決勝となった。
予想外のカードながらも、どちらが欧州王者の座につくかを注目している読者も多いことであろう。あるいは、バルセロナの名将、グアルディオラ監督の退団表明を受けて、来季に思いをはせるファンもいることだろう。
それと同時に、世界でもっとも豊かなスポーツクラブであるレアルをビジネスの側面から考えることも興味深い試みではないだろうか。
筆者はアメリカのオハイオ大学経営大学院でスポーツビジネスを学び、現在グロービス経営大学院でマーケティング・経営戦略を教えている。今回から始まる連載では、スポーツをテーマにしながらビジネスのマネジメントに役立つ知識をわかり易く説明していくつもりだ。
Number Webには、スポーツファンというだけでなく、ビジネスの最前線で活躍する20代~40代の読者も多いと聞く。マーケティングやファイナンスといったMBAの知識は経営の実務家のために体系化されたが、その知識はあらゆるビジネスパーソンにとって有益だと思う。もちろん、就職活動に奔走する学生の企業研究にも意味があるだろう。
優勝回数トップのレアルと、栄光の過去をもつアヤックスの違いは?
順位 | クラブ名 | 優勝回数 |
---|---|---|
1 | レアル・マドリー | 9 |
2 | ミラン | 7 |
3 | リバプール | 5 |
4 | バイエルン・ミュンヘン | 4 |
4 | バルセロナ | 4 |
4 | アヤックス | 4 |
7 | インテル | 3 |
7 | マンチェスターU | 3 |
さて、本題に入ろう。
サッカーを統計的視点から読み解いた『「ジャパン」はなぜ負けるのか─経済学が解明するサッカーの不条理』(サイモン・クーパー、ステファン・シマンスキー/NHK出版)によると、年俸総額とリーグ順位には相関関係があるという。確かに強いチームを目指すには優れた選手が必要で、その選手の年俸を保証するためにも売上高を増大させるべくトップクラブは活動している。
チャンピオンズリーグでの優勝回数ランキングのトップはレアル。続いてミラン、リバプール、そしてバイエルン、バルセロナと続くが、世界的な監査法人デロイトが発表しているデロイト・フットボール・マネー・リーグによると、これらのクラブはいずれも、売上規模トップ10に入っている。
さらに見ると、今年のベスト4クラブはいずれも売上高トップ6に入るクラブで、レアルや昨年の覇者バルセロナに至っては6年連続で売上高トップ3に入る巨大クラブである。
具体的な数字を挙げると、2010-11シーズンにおける収入は、レアル・マドリーが4億7900万ユーロ、バルセロナが4億5000万ユーロ、マンチェスター・ユナイテッドが3億6700万ユーロとなっている。ここまでは、法則通りだ。
しかし、アヤックスは違う。ビッグクラブが名を連ねる優勝ランキングのなかで、アヤックスはバイエルンやバルセロナと同順位にランクインしている。しかし、売上高は他のチームの5分の1程度の規模しかない。
彼らは1971年から1973年に三連覇を成し遂げた輝かしい歴史を持っている。しかし、1995年を最後に優勝から遠のいており、サッカーとしての実力はレアルには及ばない。
では一体、アヤックスはこの財政規模で何を成し遂げようとしているのであろうか。
実は、同じフィールドで戦っているように見えるレアルとアヤックスだが、経営戦略の視点からみると明らかに目指している「利益の法則」に違いがあることがわかる。つまりビジネス戦略上の違いがあるのである。
今回はレアルとアヤックスの「利益の法則」の違いに注目しながら、経営戦略・マーケティングの基本概念の1つである「利益モデル」について解説をしていきたい。