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自ら剛速球を捨てた五十嵐亮太。
メジャー入りならずも揺るがぬ意志。 

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菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGetty Images

posted2012/03/30 11:30

自ら剛速球を捨てた五十嵐亮太。メジャー入りならずも揺るがぬ意志。<Number Web> photograph by Getty Images

直球を捨て、新たな変化球としてカーブとスライダーを習得した五十嵐亮太投手。3月29日、パイレーツとのメジャー契約が実現せず、再びのマイナー契約、もしくは日本球界復帰も視野に入れたFAとして他球団との交渉に入ることになる。

 かつて“日本最速男”の異名を誇った五十嵐亮太投手。彼が活躍の場をアメリカに移してから、3年目のシーズンを迎える。今年はパイレーツとマイナー契約を結び、招待選手として開幕メジャーを争っていたが、3月29日に無情にもメジャー契約を結ばないことが通達された。

 そんな五十嵐がパイレーツのキャンプ取材に訪れた際、しみじみと呟いた言葉がある。

「メジャーに来て本当に良かったです……」

 今、この発言を耳にして、果たしてどれだけの人が共感してくれるだろうか。

 むしろ、耳を疑ってしまうのではなかろうか。それは、2010年にメッツ入団以来、辛酸を味わい続けている五十嵐の心情とは、まったくの真逆に聞こえるからだ。しかし彼は、虚勢を張っているわけではない。むしろ、心の底からそう感じているのだ。

「メジャーの打者なら誰だって160キロの真っ直ぐだけなら打てる」

 この言葉に隠された、彼の心理を理解するため、少し話を戻してみたい。

 昨シーズン、彼はメジャー昇格の最低条件である40人枠から外れてのスタートとなった。開幕こそ3Aで迎えたものの、マイナーで好投を続け、シーズン途中でメジャー昇格を果たした。2010年のシーズンの終盤からはカーブを投げ始め、自分なりに投球の幅を広げ、それを実感しながらの昇格だった。

 だが待ち受けていたのは厳しい現実だった。マイナーで通じていたはずの投球がメジャーの打者相手では通用しない。成績を残せないまま約1カ月後に再びマイナーに降格。けれども、マイナーでは好投を続け、7月に再昇格を果たす。だが、結果は同じことだった。

「スプリットもカーブも見せ球としては使えましたけど、決め球では使い切れなかった。だから打者も粘った後で、自分の真っ直ぐを待っているんです。メジャーの打者なら誰だって160キロの真っ直ぐだけなら難なく打てますからね」

 メジャー選手の凄さは1年目のキャンプから思い知らされていた。当時、メッツが導入していた動体視力強化プログラムでは、打者たちが当たり前のように200キロ近いボールに反応していたのだ。

 その驚きはシーズンに入っても変わらなかった。日本では剛速球ともてはやされた自慢の真っ直ぐが、彼らを圧倒することついぞはなかった。

【次ページ】 過去のスタイルを捨て去ることで得た、新たな投球術。

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五十嵐亮太
ピッツバーグ・パイレーツ

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