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英雄アンリの復帰に沸くアーセナル。
8週間限りの甘美な時間と厳しい現実。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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posted2012/01/19 10:30

英雄アンリの復帰に沸くアーセナル。8週間限りの甘美な時間と厳しい現実。<Number Web> photograph by AFLO

FAカップで決勝点を決め、喜びを爆発させるアンリ。赤白のユニフォームを纏う彼の姿は、かつて無敵と呼ばれたアーセナルをファンに思い出させたことだろう

「愛は盲目」。ティエリ・アンリは、そう言ってアーセナルに戻ってきた。米国MLSのシーズンオフ期間中、調整目的で古巣の練習に参加していたNYレッドブルズのキャプテンは、8年間の在籍期間中に愛着を深めたクラブの要望に応え、1月の移籍市場が開くと同時に、2カ月間の短期レンタル移籍を果たした。

 アーセナルでは2度目となったデビューは、1月9日、FAカップ第3ラウンドでのリーズ戦で訪れた。当日の観戦プログラムに、アンリは「ファンとして戻ってきた。愛するクラブの頼みに『ノー』とは言えなかった。ベンチ要員でも構わないから力になりたい」と言葉を寄せている。アーセン・ベンゲル監督に復帰を乞われたのは、クリスマス明けに行われたプレミアリーグ第18節ウルブズ戦(1-1)の前。返答には時間を要したという。

 アーセナルのサッカーは今も身体が覚えているとしても、2010年の夏から米国でプレーしている34歳のベテランFWには、欧州トップレベルの舞台で1年半のブランクがあった。通算226ゴールを誇るアーセナル歴代得点王としては、中途半端な復帰でサポーターを落胆させるような真似もしたくはなかっただろう。当人は、一昨年にスペインから米国に移籍した時点で、現役として欧州に戻る意思はないと公言していた。それでもアンリは、アフリカ選手権でレギュラークラスのFW2名を失うチームの苦境を救うために復帰を決意した。

故郷への復帰を「ティエリ・アンリ!」の大合唱で祝福。

 2007年のバルセロナ移籍以来、4年半ぶりにアーセナルの一員として迎えたこの一戦では、相思相愛のアンリとアーセナルによる夢物語が展開された。

 エミレーツ・スタジアムには、カップ戦の64強という早期ラウンドかつ、リーズという2部リーグ勢との対戦だったにもかかわらず、ほぼ満員の6万人弱が詰め掛けた。ファンは後半早々にアンリがウォームアップを開始しただけで、立ち上がって拍手喝采。試合中継局の視聴者によるMVP投票では、タッチラインの外で体を動かしている段階で、アンリの名が1位にランクされていた。

 68分に交代出場が告げられると、スタジアムには「ティエリ・アンリ!」の大合唱。主人公は、感涙をユニフォームの袖で拭いながらピッチに入り、わずか9分間で決勝点となる1点を上げた。自身のハートと、その上のユニフォームの胸にある紋章を何度も叩きながら、誇りと愛情を示したゴール・セレブレーション。続く、“ボス”ことベンゲルとの力強い抱擁。アンリは、試合終了の笛が鳴ると、両手を広げて天を仰ぎながら、再び観衆のコールを一身に浴びた。晴れてMVPに選ばれると、愛情の結晶とも言えるゴールを、今は亡きクラブの裏方に捧げている。感謝と追悼の思いは、前回の在籍当時にユニフォームなどの洗濯と選手招待客の応対をしてくれていた、2人の女性職員とその遺族に届いたことだろう。

【次ページ】 夢から覚めたあとに残ったアンリ頼みの厳しい現実。

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