指揮官として初のシリーズ。短期決戦を制すために必要なものとは何か。
苦闘の末に栄冠を掴んだ静かなる男の、激動の日々を追った。
今年7月のオールスター期間中、秋山幸二は、落合博満と食事をともにする機会があった。その席上、秋山の話を聞いた落合は、こう驚いたという。

「お前、そこまで細かく指示してるのか。オレは、投手のことなんて任せっきり。明日の先発だってわからん時がある」
秋山には「静かな監督」というイメージがつきまとう。本人も「オレは何もしないもの。見ていて、いい選手を使うだけだから。余分なことはしない」と言う。だが、実際には、選手個々を細かく把握し、たとえば中継ぎ投手の起用法についても、普段からコーチに細かい指示を出してきた。
何もしないふり、昼行灯を決め込んで、世間からの風当たりを微妙に避けながら、チームを変えていく。それが、王貞治の後を受けて指揮官の座についてからの3年間、秋山がやってきたことだった。
小久保や松中らの功労者も、容赦なくスタメンから外す。
'09年の監督就任当時、戦力は磐石ではなかった。王監督時代を支えてきたベテランに力の衰えが目立ち、若手の底上げが必要になっていたのだ。「勝利と育成」という異なる命題を同時に実現しなければいけない過渡期。困難な状況をつきつけられた秋山は、次々とチームの改造に着手していった。
攻撃面では、川﨑宗則、本多雄一、松田宣浩ら走れる戦力を重用。有望な若手投手には、自分が現役時代にハングリー精神を養った海外武者修行を経験させた。そして小久保裕紀、松中信彦という2人の功労者も決して特別扱いせず、「この世界で生き残りたかったら、結果を残しなさい」と見守った。そして1カ月待って成績が悪ければ、容赦なくスタメンから外す。「結果が出てないんだから、仕方ないじゃん」と、平然と語る凄さがあった。
移籍組の多村仁志や内川聖一に対しても同じ姿勢で臨み、彼らが故障などで欠場を余儀なくされると、「休みたいなら、いくらでも休んでいい」とばかりに、福田秀平や明石健志ら若手野手を抜擢し、その穴を埋めた。内川は「自分がいなくても機能するチームに恐ろしさを感じた」という。若手とベテランを区別なく競わすことで活性化を促し、チームは着実にその強さを増してきた。
そして2011年秋。11球団に勝ち越し、2位に17.5ゲームの大差をつけるという圧倒的な成績を挙げ、監督として初めて日本シリーズの舞台に乗り込んできたのである。
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