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ようやく復調してきた「優しい男」。
内田篤人の声に出さない忍耐力。 

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了戒美子

了戒美子Yoshiko Ryokai

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photograph byBongarts/Getty Images

posted2011/11/23 08:03

ようやく復調してきた「優しい男」。内田篤人の声に出さない忍耐力。<Number Web> photograph by Bongarts/Getty Images

9月下旬から11月上旬まで、「歩くだけで痛いくらい」のケガによって公式戦から離れていた内田篤人。11月中旬にはフル出場も果たすなど、現在はほぼ完璧な回復ぶりを見せている

 今季に入って間もない頃のある試合後、ミックスゾーンでこんなことがあった。ベンチ入りしたが出場機会のなかった内田篤人は「今日は答えられることなんてないですよ」などと言いながら、気楽な表情で登場した。選手によっては、試合に出ていないが故のイライラや、気恥ずかしさ、はたまた面倒くささから報道陣を避けるケースもあるのだが、内田はそういうことをするタイプではない。

 その日、話は思いのほか弾んだ。

 試合メンバーから外れている間は筋力トレーニングに精を出していること、それもシャルケ生え抜きでまだ18歳ながらほぼレギュラーのドラクスラーと「お前の筋肉、たいしたことねーなー」などと言い合いながら、並んで筋トレマシンと格闘していることなどを楽しげに明かす。

「で、成果のほどは?」と振ってみると、内田は胸の辺りにわざとらしく力を入れて、「どう? 触ってみて」と口には出さずに記者たちに突き出してきた。男性記者が手でその胸筋の感触を確かめる。

「お。すごい」と反応を得ると「でしょ?」と言わんばかりの満足した表情をおどけながら作り、ふにゃりと力を抜くと、元の姿勢に戻った。

欧州のピッチで得た自信が内田の人間的な魅力を引き立てていく。

 こんな一連のやりとりで笑いを起こし、和やかな空気を作ってしまう。

 一人の選手対複数の記者という、いわば数的優位にこちらが立っていたはずなのに、会話の主導権はこれで完全に内田に持って行かれた。おそらく内田は、この日の報道陣全員の顔と名前が一致していた訳ではないはずだ。その必ずしも親しくない人たちの前で、まるでコミュニケーションを楽しむかのようにちょっとおどけてみたり、冗談を言ったり、自分をさらけ出す。自然体でオープンな印象は他のどの選手とも違い、どこかしなやかだ。

 おそらく、内田が持つ元々のコミュニケーション能力の高さに加えて、ピッチで得た自信がこの余裕につながるのだろう。昨季欧州CLベスト4のチームで、新加入ながらレギュラーを勝ち取ったのだから、もちろん手応えも自信もないわけがない。

 昨季までシャルケでプレーし、今季からフィテッセでプレーするアンソニー・アナンは、新チームメイト安田理大に内田がいかに信頼されているかを語ったのだそうだ。

「ウッチーがシャルケで一番の右サイドバックだから使わない監督の方が悪いって選手たちは言ってるって。だからウッチーがレギュラーに戻るのは時間の問題って選手たちは見ているらしい」

【次ページ】 筋金入りの老サポーターも虜にする内田の俊足。

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