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ラルーサの知性と電撃的引退。
~世界一の名将の頭脳と情~ 

text by

芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

PROFILE

photograph byYukihito Taguchi

posted2011/11/06 08:01

ラルーサの知性と電撃的引退。~世界一の名将の頭脳と情~<Number Web> photograph by Yukihito Taguchi

自身3度目のワールドシリーズ制覇の3日後、引退を発表

 トニー・ラルーサが引退した。カーディナルスの監督を辞任しただけでなく、野球の現場から引退したのだ。ワールドシリーズ制覇後、わずか3日。こんなにあっさりと辞めた監督は史上初めてではないか。

 ラルーサは67歳だ。帯状疱疹の治療を始めてからは顔がむくみ気味で、右眼のまぶたも垂れ下がりがちだったが、病気はコントロール可能で、引退とは直接関係がないそうだ。

 あとになってわかったことだが、ラルーサは今年(2011年)の8月、すでに辞任の意思を固めていた。GMのジョン・モゼリアクにはひそかに伝えていたが、モゼリアクも約束を守って他言はしなかった。8月といえば、カーディナルスが周囲に無視されていた時期だ。中地区の優勝はほぼ絶望的だったし、ワイルドカード・レースでも、8月24日の時点でブレーヴスに10ゲーム半も引き離されていた。反攻の芽は完全に摘まれていた、といっても過言ではない。

絶体絶命の危機に瀕してもラルーサは終始穏やかだった。

 ところが、カーディナルスは絶望の淵から這い上がった。

 レギュラーシーズン終盤に調子を上げたチームはポストシーズンでも強い、とはよくいわれることだが、今季のカーディナルスの場合は、「終盤の勢いを持ち越した」というよりも「9月と10月の2カ月間をかけて猛然と逆襲した」といったほうがぴったり来る。ブレーヴスを抜き、ナ・リーグ最強のフィリーズを倒し、夢の世界一にかなり近づいていたブルワーズを破って、彼らはワールドシリーズに臨んだのだ。

 あとは、みなさんご存じの結末である。あのジェットコースターのような第6戦、カーディナルスは「2点差、ツーアウト、ツーストライク」という絶体絶命の状況から2度も蘇ってレンジャーズに追いついた。それも、9回裏と10回裏の反撃だ。ついさっきまで平凡な飛球をぽろぽろと落としていた選手たちに、こんなことができるのか。私は、信じられぬ思いで眼をこすった。

 が、ベンチのラルーサはその間も沈着で冷静だった。いや、冷静というよりも穏やかだった。平穏で温厚で、微笑さえ浮かべそうな顔をしていた。

【次ページ】 革新的な戦術を編み出した「球界最先端の知性」。

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