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東農大がプロ王者を
次々と輩出する理由。
~ボクシング界の知られざる“現象”~ 

text by

前田衷

前田衷Makoto Maeda

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photograph byBOXING BEAT

posted2011/10/11 06:00

清水智信はウーゴ・カサレスに1-2の判定勝ちし、WBA世界スーパーフライ級王者に

清水智信はウーゴ・カサレスに1-2の判定勝ちし、WBA世界スーパーフライ級王者に

 今回のこのコラムのテーマは、ボクシング界における、知る人ぞ知る“東農大現象”について――。

 去る8月31日、3度目の世界挑戦を実らせWBA世界スーパーフライ級王座を奪取した清水智信は、アマチュア時代、東京農業大学ボクシング部のキャプテンを務めた。清水よりひと足先にWBC世界ミニマム級王座に就いた井岡一翔は同部を2年で中退してプロ転向し、7戦目でスピード出世を果たした。他に五十嵐俊幸(フライ級)、岡田誠一(スーパーフェザー級)の現役日本王者も同校OBだ。五十嵐は11月に世界挑戦者決定戦を控え、同校3人目の世界王者の期待も高まる。

 東農大は最近7年間で5度全日本大学王座を制したチャンピオン校だが、一大学ボクシング部が同時に4人もプロの王者を輩出した例は過去にない。これはたまたま起こった現象なのだろうか?

昔からプロジムに出稽古に行く慣わしがあった東農大。

 アマ・プロ協調の最近はプロジムでアマ選手が練習する光景もめずらしくないが、東農大には昔から校内の練習に留まらず積極的にプロジムに出稽古に行く慣わしがあった。3分3回戦のアマ選手が、パワー重視のプロを相手に時に4回以上のスパーを行なうのだから、これが同校のチーム力増強に貢献したことは間違いない。同時にプロ側からの勧誘もあろうし、部員のなかには「これならプロでやれる」とその気になる選手も出てこよう。

 叔父が世界王者の井岡ははじめからプロ志望だったが、清水は体育教師になる方針を大胆に変更してプロに転じた。高校大学を通じてあと一歩で日本一になれず、「まだやり残したことがある」とプロで続ける決心をしたのだ。アテネ五輪代表で先輩の清水と数え切れないほどスパーした五十嵐は、就職時期を逸し、最初の選択肢にはなかったプロに“就職”。清水との同窓対決で敗れた苦い経験もある。

 豊富な練習量と基本のしっかりした選手が多いことで知られる東農大の選手が、プロで活躍するのも不思議ではない。また部員のプロ転向に寛容な同校の伝統もある。「巨人に憧れた野球少年が巨人に入ってプレーしたいと思うのと一緒で、どうしてもプロでやりたいという学生を引き留めることはできない」と山本浩二東農大監督は語る。今後も同校はアマのトップを維持しつつ、プロへの優れた人材の供給源でもあり続けるに違いない。

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