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慶応大と慶応高の不思議なギャップ。
――打者走者は全力疾走すべきである。 

text by

小関順二

小関順二Junji Koseki

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photograph byAkane Ohara

posted2009/05/04 06:00

慶応大と慶応高の不思議なギャップ。――打者走者は全力疾走すべきである。<Number Web> photograph by Akane Ohara

 東京六大学リーグの慶大戦を見た人は誰でも、「慶大って慶応高出身の選手が多いなぁ」と思うはずだ。4月26日の明大戦を例に取ると、1番漆畑哲也(三塁手)、2番竹内一真(左翼手)、3番山口尚記(右翼手)、7番渕上仁(遊撃手)、8番高橋玄(捕手)、9番中林伸陽(投手)の6人が慶応高出身。ライバル校の早大はどうかというと――、同日行われた法大戦では3番山田敏貴(左翼手)、8番後藤貴司(遊撃手)、9番斎藤佑樹(投手)の3人が係属の早実出身。つまり、慶大の半分しか付属・係属出身はいない。

 慶大にとって慶応高が重要な供給源であることはわかるが、慶大が早大の後塵を拝することが多いのは、慶応高出身の選手がチーム内に溢れていることが原因なのでは、と思えるときがある。つまり、選手の個性が均一化されている。

今季好調の慶応大はつねに打者走者が全力疾走である

 早大は愛工大名電(小島宏輝)、広陵(松永弘樹、土生翔平)、桐蔭学園(原寛信)、今治西(宇高幸治)、東総工(杉山翔太)などの個性が1つになっている。東海・西日本の緻密な野球に東日本の荒々しさがまとまってアンサンブルを奏でている、という印象なのだ。そういう、個性のせめぎあいが慶大の野球からは感じられない。過去8シーズン、Bクラス陥落は一度しかないのに優勝に手が届かなかった原因の1つだと思う。

 それでも今シーズン、慶大はいい野球をしている。決め手はないが、打者走者の走塁が元気いっぱいなのだ。打者走者の全力疾走の目安は「一塁到達4.29秒未満、二塁到達8.29秒未満、三塁到達12.29秒未満」で、これを慶大の多くの選手は次に紹介するようにタイムクリアしている。

 4/6 新日本石油戦(オープン戦)タイムクリア6人7回

 4/11 立大戦 タイムクリア7人8回

 4/26 明大戦 タイムクリア4人5回

 この人数と回数はアマチュア屈指と表現しても間違いではない。

 今シーズン、タイムクリアした選手の名前も紹介しよう。山本良祐、湯本達司、青山寛史、小野寺和也、渕上仁、田中宏典、漆畑哲也、竹内一真、山口尚記、中林伸陽の10人。投手の田中、中林でさえ全力疾走しているところに慶大の走塁に対する本気度がうかがえる。

慶応高は走らない。プロ注目の白村投手以外は……

 さて、ここからが本題なのだが、慶大の一大供給源である慶応高が全力疾走に取り組んでいない、ということをご存知だろうか。今センバツ大会ではタイムクリアが2人(2回)と少ないのにくらべ、「一塁到達5秒以上、二塁到達9秒以上、三塁到達13秒以上」というアンチタイムクリア(不真面目な走塁)が3人(4回)もいた。優勝候補に挙げられながら1回戦で敗退した大きな理由である。

 打者走者は走らなくても塁上の走者は走るし、ヒットエンドランやバントで走者を進塁させ、ワンヒットで生還させる野球はやっていると反論されそうだが、慶大は大学球界屈指の全力疾走を徹底しているのに、慶応高がまったく無関心というのは、供給先と供給元の関係を考えればやはりよくないことだと思う。

 ちなみに、慶応高で全力疾走する数少ない選手の中に、エースの白村明弘がいる。センバツの開星戦では第3打席の投手ゴロで4.25秒という全力疾走を記録。アウトが確実な投手ゴロを打って全力で一塁まで走るというのは、想像以上に困難を伴う。それを、プロ注目の大型投手が率先して実行している。他の選手は見習うべきである。

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