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片山右京の新たな挑戦 

text by

西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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photograph byTakashi Shimizu

posted2006/11/22 00:00

片山右京の新たな挑戦<Number Web> photograph by Takashi Shimizu

 「マイナス39度ですよ、そこに20時間も居たんです。だいたいマナスルの死亡事故は90%が下山時に起こる。だから登頂に2割の力を使って、残りの8割を下山に使えと言われているんですが、今回は頂上に立った時にもう9割使ってた。ハハハ……ヤバいですよね」

 元F1レーサーにして現F1TV解説者の片山右京に雑誌のインタビューで会った。

 11月5日、世界第8位のマナスル峰(8163メートル)に登頂する快挙を成し遂げたのは右京氏のホームページで知っていたが、下山時の悪天候に悪戦苦闘、凍傷にかかってしまい、帰国は車椅子だったことをこの時初めて知ったのだった。

 「まぁ、凍傷二部上場というくらいで(笑)、足の指は全部切ったんです」

 エッ!と驚く筆者を「嘘ですよ」と軽くいなして、今後の登山計画について「来年は春にチョモランマをやって、夏に……」と、聞いたことのないような名前をズラズラ並べて「で、これでヒマラヤ七峰征服ということになるんです」と言った。

 ただこれだけでは「今こそモータースポーツ!」という本コラムに結びつかないが、右京氏にはマナスルを征服した「今からがモータースポーツ!」ということになる。

 マナスル登頂成功も束の間、片山右京は今年もアドベンチャー・ラリーとして世界に名を馳せるパリ・ダカールに挑戦するのだ。それも「天ぷら油」のリサイクル燃料(バイオマス)で走るというのだから面白い。マシンはトヨタ・ランドクルーザー、エンジンはディーゼル式。ただし、天ぷら油燃料で走ればCO2もNOXも出ない。

 「天ぷらやフライの油って、タンカーに乗せて東南アジアに持って行って捨ててるんですよ。石鹸にしたりはするんでしょうけど、そんなの何%もない」

 世界的な石油危機である。もう化石燃料を燃やして地球温暖化を加速することはできなくなっている。当然、モータースポーツもその方向から無関係ではいられない。FIA会長のM・モズレー氏も、この先数年で、F1マシンをエネルギー回生装置を備えたものにしたらどうか、という案を練っているくらいである。

 地球環境保護とは無縁でいられないこれからのモータースポーツのあり様を先取りする片山右京のパリ・ダカ挑戦。本人は「天ぷら油はまだまだパワーの点で問題がある。ま、あんまり熱くならないで行きますよ」とクールだが、いざレースとなればどうなるか分からない。

 「これまでのパリ・ダカで右にも左にも転んだし、前転もやりました。あとやってないのはバック転だけ(笑)」などと、恐ろしいことを言うが、いっぽうで「エンジンから天ぷらの匂いがして来るんですよ」などと暢気なことも言っている。

 結果はともかく、天ぷら油がアドベンチャー・ラリーでどこまで通用するのか、これはなにかほのぼのとした挑戦という気分になってくる。

 そういえば、足の指の凍傷はいつになったら治るのか。この答がまた右京氏らしくビックリ仰天のものだった。

 「予定ではちょうど、パリ・ダカをスタートする日です。ハハハ……」

※注:植物は成長過程で光合成により、CO2を吸収している。よって、植物起源の燃料はライフサイクル全体でみると大気中のCO2を増加させていないので、天ぷら油リサイクル燃料は、CO2の排出がなかったとみなされる

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