MLB Column from WestBACK NUMBER

名選手輩出の源、ハワイウィンターリーグ 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byYasushi Kikuchi

posted2006/12/12 00:00

名選手輩出の源、ハワイウィンターリーグ<Number Web> photograph by Yasushi Kikuchi

 現在ウィンター・ミーティングが開催されている最中に、このコラムを書き始めている。2年前アナハイムで開催された際に、同会議について詳細に触れたが、MLBにとってオフシーズン最大のイベントであり、選手の入団交渉に関してはクリスマスをはさんだ年明けまでの長期休暇に入る直前の最後の本格交渉場所とあって、やはりどんな大物選手の移籍があるのか目が離せない時期でもある。個人的には来季の現役続行を希望しているバリー・ボンズ選手の動向が気になっているのだが、果たして…。

 さて、ウィンター・ミーティングの詳細は次回以降に譲るとして、今回は先日取材に行ってきたハワイ・ウィンター・リーグ(以下HWB)について紹介したいと思う。読者の方には聞き覚えのある方もおられることと思うが、HWBとは日米韓台の若手選手を集め、オフ期間における選手たちの武者終業の場として1993年からスタート。しかしMLBとの契約問題もありわずか5年で中断していたのだが、今年9年ぶりに復活したわけだ。これまで取材する機会もなかったので、リーグ最終3日間密着させてもらった。

 実はHWBに関しては、随分昔から興味を持っていた。MLBの取材を続けていて、頻繁にその話題を聞く機会が多かったからだ。現在メジャーで活躍する田口壮、イチロー、城島健司、井口資仁、松井稼頭央──各選手がすべて同リーグ出身者。さらにメッツに在籍した柏田貴史投手やヤンキースと契約した前田勝宏投手もそうだった。彼らの取材をしている時に、彼らから「○○とはハワイで一緒だった」という言葉をちょくちょく耳にしていたのだ。つい最近ではロッキーズにトレードされた松井選手が、やたらトッド・ヘルトン選手と仲がいいので確認したところ、1995年にHWBで同じチームだったと聞いて吃驚させられたなんてこともあった。

 「中断中もオフィスは開き続けた。MLBとの交渉を続ける一方で、ノモやリプケンを呼んで野球教室を実施するなど、ハワイに野球の火をともし続ける努力をしてきた」

 9年ぶりのリーグ復活にこじつけたドウェイン・クリス会長は、熱く語ってくれた。彼らの尽力の結果、現在はMLBとはこれまで以上の密接な関係を築けたということで、「今後長年に渡りリーグを開催できるだろう」と、笑顔もみせてくれた。

 日系3世のクリス会長にとって、リーグ復活の最大の喜びの1つが日本人若手選手たちをハワイに呼べることだという。

 「私は米国市民だが、自分の心は常に日本にある。そんな国の若者たちにぜひハワイに来て、野球を含め新しい体験をしてほしい」

 もちろんリーグ復活に当たり、会長は日本球界とも選手派遣再開について交渉を続けており、復活1年目から11球団32選手が参加。ヤクルトの飯原誉士選手が本塁打王に、また楽天の有銘兼久投手が最多勝タイに輝くなど、1A中心のメジャー若手有望選手たちと台頭に渡り合っていたようだ。

 「日本の選手は年々レベルが上がっていると思う。以前から最終的にパワーが課題に上げられるが、最近は選手の体格も大きくなっているし、皆熱心にウェート・トレもやるようになっている」

 今回HWBで監督を務め、千葉ロッテでコーチ経験もある元日系メジャー選手レン・サカタ氏は、日本人選手をそう評価した。そして今回も将来メジャーで通用しそうな選手が何名もいるとする一方で、以下のように話してくれた。

 「イチローらがこのリーグで学んだものは大きかったし、彼らが選手として成長するのに大きな役目を果たしたと思う。そして彼らがメジャーに移っていったのも、このリーグである程度の自信を掴んだり、メジャーのより競争的な野球に魅力を感じたからではないだろうか」

 サカタ氏の言葉ではないが、以前吉井理人投手から、メジャーは選手個人がメインだと思われがちだが、日本以上にチームで戦う大切さ、面白さが体感できると聞いたことがある。今回もHWBに参加していた日本人選手たちが、実に楽しそうに取り組む姿が印象的だった(とはいえ彼らが日本でプレーしている姿を知らないので比較対象はできない)。

 「日本に残っていたら、あのままずっといっていたかもしれなかった。こっちに来て環境が変わり、いろいろな経験を積ませてもらえたので、まずまずの成績が残せたと思います。野球に対する考え方の違う、こっちの選手を見て、今後自分なりに日本で活用したいと思いました。ハワイに来られて自信になったというか、コツを掴んだ感じです。こっちの楽しい野球というのも学ぶことができましたし、将来は(ここで)やりたいなという気持ちも沸いてきました」

 今年鳴り物入りで巨人入りしたものの、厳しいプロ1年目を過ごした辻内崇伸投手。その言葉からもわかるように、彼にとってHWB参加はいろいろな意味で大きな影響を及ぼしたようだ。9年ぶりに復活したHWBは、今後も日本人若手選手にとって魅力ある存在で有り続けるのは間違いない。

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