2時間あまりの間に、実況アナウンサーは数えきれないほど魔裟斗の名前を連呼した。4月21日、マリンメッセ福岡で開催された『K-1 WORLD MAX2009 FINAL16』、そのテレビ中継のテーマは、徹頭徹尾“魔裟斗引退”だったのである。試合の合間に、何度となくエキシビジョンマッチを控えた魔裟斗の様子がレポートされる。本戦出場選手は“魔裟斗の天敵”“魔裟斗も警戒する男”と紹介され、過去の試合もダイジェストで挿入。番組のすべてが“魔裟斗目線”で埋め尽くされた。
魔裟斗のネームバリューを考えれば、当然のことなのかもしれない。だが“テレビ番組”ではなく現実のリングに目を向ければ、格闘技界に新たな個性が次々と台頭しているのが分かる。その代表例が、この大会にも出場した“コスプレファイター”長島☆自演乙☆雄一郎であり、ともに“キモ強”と形容される青木真也、北岡悟だ。女性人気やCM出演など最大公約数的なスター像を体現した魔裟斗が引退する年に、異色、あるいは異能の選手たちがクローズアップされるというのは興味深い現象だろう。
「総合格闘技なら空手」という時代の到来なるか?
もう一つ、見逃せない流れも起こっている。“空手の復権”だ。アマチュア競技として世界的に根付いたがゆえに派手な話題性が薄れ、一般メディアに注目されることが少なくなった空手だが、最近は総合格闘技の分野で空手出身者が強さを発揮しているのだ。
いまやパウンド・フォー・パウンドとも言われるUFCウェルター級王者ジョルジュ・サンピエール(GSP)は、極真空手から格闘技キャリアをスタートさせた。デビュー以来無敗、UFCライトヘビー級王座挑戦も決まっているリョート・マチダは伝統派空手の出身。日本でも、極真ブラジル支部のアンドリュース・ナカハラがDREAMを舞台に連勝を飾っている。4月16日の『DEEP 41 IMPACT』(後楽園ホール)では、やはり極真空手の内弟子だった菊野克紀が、王座決定戦で松本晃市郎をKOで下しライト級タイトルを獲得している。早ければ9月にもDREAM参戦が実現するというから、今後その注目度はさらに高まるはずだ。
菊野の得意技は、ミドルキックと前蹴りの中間の軌道で放たれる空手独自の“三日月蹴り”。すり足で相手に圧力をかける構えは三戦(さんちん)立ちがベースになっている。他の競技とはまったく違う間合いや、極真式の豊富な稽古量で培ったフィジカルの強さも大きな武器だ。打撃、テイクダウン、寝技とすべての技術をバランスよく習得することが必須となっている現在の総合格闘技において、菊野はあくまで空手にこだわり、空手家として勝利を掴んできた。曰く「いままではボクシングやキック、柔術が総合のメインの技術とされてきましたが、(自分が勝つことで)“総合をやるなら空手”という意識が出てきてくれれば」。
“地上最強のカラテ”の後継者たち
最先端の格闘技ジャンルである総合で、伝統的な武道・空手の強さが見直され、復権する。この流れは、決して特異なものではない。格闘技は競技で結果を出すのが目的であると同時に“最強”という、いわば幻想を追求するものでもあるからだ。最先端のジャンル、すなわち最もエクストリームな舞台で結果を残さなければ“最強幻想”は生まれない。そして極真の理念とは「実証なくんば証明されず、証明なくんば信用されず、信用なくんば尊敬されない」である。
10年ほど前には、アンディ・フグやフランシスコ・フィリォが当時の最先端ジャンルだったK-1で“空手最強幻想”を作りだしてきた。そこで思い浮かぶのは、日本中に空手ブームを巻き起こした劇画『空手バカ一代』が1970年代前半の週刊少年マガジンで連載されていたということだ。『あしたのジョー』や『天才バカボン』と同時期、最先端の雑誌メディアだった頃の少年マガジンで、である。GSPやリョート、ナカハラ、そして菊野は、マス大山から始まる“地上最強のカラテ”の正統的な後継者なのだ。
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